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エルビウム光ファイバ増幅器とその応用に関する先駆的研究

 トランジスタが電子回路の基本素子として今日のエレクトロニクスを支えてきているように、小型の光増幅器が実現できるならば、今後の光エレクトロニクスをより一層発展させていくための基本能動素子として重要な役割を果たすであろうことは想像に難くない。レーザは名前のとおり本来は光増幅器であるが、ごく最近まではレーザ発振器およびエネルギー増幅に関する技術が主流を占め、光エレクトロニクス分野で重要な微弱な光信号の低雑音増幅に関する技術には急速な進展がなかった。

 しかし、ここ4~5年、光ファイバのコアにEr3+(エルビウム)もしくはNd3+(ネオジム)などの希土類イオンを添加することにより、それらイオンからの固有な遷移での誘導放出を用いた光増幅に関する研究が、日本、英国、米国を中心として爆発的な勢いで進んできている。Er3+イオン誘導放出の波長としては1.53~1.55μm(4I13/24I15/2)の遷移線がよく知られており、この波長帯が光ファイバ通信の最低損失波長域にあるため光通信への応用が積極的に行われている。

 希土類元素添加光ファイバ増幅に関する研究は1963~1964年にかけてE.Snitzerらを中心として始まり、今まで数多くのグループが優れた研究を行っている。光ファイバ増幅の動作原理は自明であり、30dB以上の利得が容易に得られていたわけであるが、励起光源としては大掛かりなArレーザ、YAGのSHG、および色素レーザを用いていたため実用化は困難であった。

 このような状況の中で、中沢正隆氏、萩本和男氏はErファイバを励起するための光源として波長1.48μmのInGaAsP半導体レーザを用いる方法を世界で初めて提案し、波長1.5μm帯において12.5dBの利得が得られることを報告した。これにより電池でも駆動できる小型の広帯域光増幅器が現実のものとなり、その後のさまざまな光通信への応用が急速に展開する端緒となった。同氏らは直ちにこの光増幅器を用いることにより長スパン光伝送システム・ビットレートフレキシブル超高速光伝送システムに関する先駆的な実験を行い、その実用性を世界で初めて実証することに成功した。

 Er添加光ファイバ増幅器は大変素性が良く、本来安価でありかつ取扱いが簡単なためだれにでもすぐ使えるという特徴がある。また、光信号を電気に変換することなく光信号のままで増幅再生できるため、光通信システムの多様性を飛躍的に増大させることができる。最近では、多くの研究者がEr添加光ファイバ増幅器の応用について取り組んでおり、光通信技術は今やこの光増幅器をその基礎とした第二世代の光通信時代に突入しつつある。

 Erファイバ光増幅は、各種の光通信技術に新たな流れを作り出したばかりでなく、ファイバレーザ技術、光計測技術、光信号処理技術などの広い分野に大きな進歩をもたらすなど90年代から21世紀の情報社会を支える大きな柱になるものと期待される。

この技術に対して、電子情報通信学会は、1994年、中沢正隆氏、萩本和男氏に業績賞を贈った。


文献

[1] M. Nakazawa, Y. Kimura and K. Suzuki、Efficient Er【上付き:3+】-doped optical fiber amplifier pumped by a 1.48 μm InGaAsP laser diode、1989年、Appl. Phys. Lett., vol. 54, pp. 295-297 (1989).
[2] Y. Kimura, K. Suzuki and M. Nakazawa、46.5 dB gain in Er【上付き:3+】-doped fibre amplifier pumped by 1.48 μm GaInAsP laser diodes、1989年、Electron. Lett., vol. 25, pp. 1656-1657 (1989).
[3] K. Hagimoto, K. Iwatsuki, A. Takada, M. Nakazawa, M. Saruwatari, K. Aida, K. Nakagawa, and M. Horiguchi、250 km nonrepeated transmission experiment at 1.8 Gb/s using LD pumped Er【上付き:3+】-doped fibre amplifiers in IM/DD system、1989年、Electron. Lett., vol. 25, pp. 662-664 (1989).
[4] M. Nakazawa, Y. Kimura, and K. Suzuki、Soliton amplification and transmission with Er【上付き:3+】-doped fibre repeater pumped by GaInAsP laser diode、1989年、Electron. Lett., vol. 25, pp. 199-200 (1989).
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[6] 中沢正隆、Erドープ光ファイバーによる光増幅とその応用、1990年、応用物理, vol. 59, pp. 1175-1192 (1990).
[7] K. Suzuki, Y. Kimura, and M. Nakazawa、High power Er【上付き:3+】-doped fiber amplifier pumped by 1.48 μm laser diodes、1990年、Jpn. J. Appl. Phys., vol. 29, pp. L2067-2069 (1990).
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[9] K Hagimoto, Y. Miyagawa, Y. Miyamoto, M. Ohashi, M. Ohhata, K. Aida, K. Nakagawa、A 10 Gbit/s long-span fiber transmission experiment employing optical amplification technique and monolithic IC technology、1990年、Trans. IEICE, vol. E73, pp. 27-30 (1990).
[10] M. Murakami, T. Kataoka, T. Imai, K. Hagimoto, M. And Aiki、10 Gbit/s, 6000 km transmission experiment using erbium-doped fibre in-line amplifiers、1992年、Electron. Lett., vol. 28, pp. 2254-2255 (1992).

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エルビウム光ファイバ増幅器、1.48 μm帯InGaAsP励起レーザ、レーザ・量子エレクトロニクス、光通信システム、光伝送、光エレクトロニクス
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