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D60/70ディジタルシステム

D60/70システムの構成

図1 D60/70システムの構成

伝送・交換のディジタル統合通話路

図2 伝送・交換のディジタル統合通話路

ビルディングブロック構造による規模系列化

図3 ビルディングブロック構造による規模系列化

方式諸元

表1 方式諸元

研究開発の経緯

 D60,D70はNTTが開発し、1982年から全国導入したディジタル交換機の呼称である。

 伝送路と統合するディジタル音声交換方式がベル研究所で考案され、ESSEX(Electronic Switching System Experiment)とよばれる実験機が発表されたのは1959年である。この原理によるディジタル交換機が本格的商用に入ったのは、中継線交換が1970年代中期、加入者線交換は同年代の後期からである。実用までに、15年から20年の道程を経たことになる。この期間は、経済化をはじめとして商用化へ向けての諸条件の成熟に要した。

 わが国では電電公杜の電気通信研究所において、1964年(昭和39年)、それまでの研究を総合し、3年間にわたってDEX-T1と呼称する実験用加入者線ディジタル交換機を試作した。ディジタル交換回路網の前段に空間分割スイッチを設けた集線方式、遠隔制御集線機能、直列PCM24多重のS-T-S型ディジタル通話路、コンピュータによる蓄積プログラム制御等により構成されており、わが国のディジタル交換方式の原形ともいうべきものであった。

 当時,同研究所では空間分割形のアナログ電子交換方式 DEX-1,DEX2(D10の原型)を並行して開発していた。ディジタル交換方式はクロスバの次世代の交換方式の候補の一つとしてこれと比較検討されたが、音声交換の領域では経済性の点で当分アナログ電子交換方式をしのぐことはできないという結論であった。

 このDEX-T1の試作評価から得られたそれ以降の研究指針は、次のように集約された。

(a) 経済化のため、部品レベルからの研究が必要である

(b) ディジタル伝送環境での中継線交換方式としてまず有効となろうが、我が国はまだその時期に至っていない(当時はPCM-24方式が導入の緒についた時期であった)

(c) 音声ではなく、ディジタルデータの交換には早期に成り立つ可能性が強い

 この指針に沿って,研究所では電話用ディジタル交換の実用化は中止し、この指針に沿ったシステムエンジニアリングと基礎的な研究を進めることにした。その後,集積回路の目覚ましい発達によってこの期間は予想よりはるかに短いものとなる。

 1965年(昭和40年)代の中ごろから、データ端末とコンピュータを通信回線で結ぶデータ通信が増加してきていた。このような情勢を踏まえ、電電公杜では1971年(昭和46年)ディジタルデータ交換方式(DDX)の実用化を開始し、1979年、1980年と相次いで回線交換,パケット交換による公衆データ網サービスを開始した。

 電話用のディジタル交換方式について、商用へ向けての本格的開発を開始したのは1977年(昭和52年)である。「近年におけるディジタル伝送技術、時分割交換技術、LSI技術等の急速な発展を背景に、ディジタル化による電話網の経済化、効率化を目指し、更に各種サービスをも包含したサービス総合網を指向する通信網ディジタル化の研究を進める」という趣旨を実用化立案書で述べている。事実、この時期にはディジタル伝送方式はPCM-24が大量導入期(当時、市外回線の約1/4の60万回線)にあり、DC-100Mに続いてDC-400Mも実用化を終え、光ファイバ伝送方式が実用化へ移行する趨勢にあった。一方,集積回路技術の分野では、16Kbit/チップのRAMが製品化され、次の目標となった64Kbit/チップのRAMの出現も予測されていた。また,16bit/語のμプロセッサが開発途上にあり、LSIは機能当り価格が5年で1桁低下するという傾向で目覚ましい進歩を示していた。

 このような情勢をうけて、ディジタル交換方式の実用化を次のような3段階で進めることとした。

(a) 市外中継網のディジタル化

(b) 加入者線交換機までのディジタル化

(c) 宅内機器までのディジタル化

 D60は(a)のための大局用中継線交換機であり、D70は(b)および(c)のための加入者線交換機である。(c)は(b)にディジタル加入者線インタフェース機能を付加し、サービス総合ディジタル網(ISDN:Integrated Service Digital Network)を実現する交換機である。D60は1982年から、70はその翌年から商用を開始した。


開発目標

 前項で述べたように、ディジタル交換方式実用化の環境条件は熟したとはいえ、これが開発導入される我が国の電話網は、既に加入者4,300万を越す巨大な全国網に成長していた。この中で稼動している交換機は、長期にわたる電話拡充計画に基づいて設備されてきたもので、その数約9,000台、施設後長期間を経過したS×Sから最新の電子交換機まであった。また,伝送設備のディジタル化はかなり進展したとはいえ、アナログ方式も存在した。D60、D70は、このような環境の中に設備更新を主体に導入され、漸次ISDNを形成していくことになる。

 このような背景から、D60/70ディジタル交換方式の開発目標を次のように設定した。

(a) アナログ交換方式、アナログ伝送方式、電話機等の既設設備とも整合すること。No.7共通線信号方式のほかに、既設アナログ設備との相互接続も必須となる。

(b) ディジタル交換としての特長、すなわち ISDN の基盤たりうる機能・性能を十分に有すること。すなわち、電話サービスに加えて、加入者線伝送方式のディジタル化に伴う多彩な非電話サービスも提供できるように、機能の拡張性が必要である。

(c) その上で、既設アナログ設備を更改できる経済性を有する。具体的な設計条件としては、交換機の大容量化によリ現在のマルチユニット局を併合して固定費用の節減、回線能率の向上を目指すこと。ならびに、加入者線交換機の規模別機種を統一できること。


D60,D70の技術的特徴
(1) 伝送交換のディジタル統合
 交換機の通話路は伝送路と同じオクテット(8bit)多重を採用し、低電力MOSメモリを使った1,024多重の分配スイッチを実現した。一方,同期端局装置は、信号アウトスロット配置の新しい同期化フレーム構成を考案してディジタル2次群(8,192Mbit/s,128タイムスロット)までを同期化した。さらに、複数フレーム同期の一括処理回路と多重インタフェース回路を開発することにより、多様な情報を効率良く回線に収容できる回線設定法を実現した。
(2) 端末間ディジタル1リンクの形成
 ディジタル型の加入者集線方式を開発して経済的なディジタル1リンク接続を実現したことにより、多種多様なディジタル宅内機器を効率よく収容することが可能となり、高度情報社会における高機能な非電話系サービスを提供しうる技術基盤を確立した。また、遠隔集線装置の開発により、小容量交換の経済化に大きく貢献した。
(3) ビルディングブロック構成
 従来のディジタル交換機は、小局用から大局用まで、また中継線用と加入者線用を同一設計で統一し一系列化することは極めて困難であった。このため、複数の機種をおこしていた。本システムでは、機能と容量とを単位としてハードウェアとソフトウェアをブロック化し、これを積みあげて交換機を構成する技術を開発し、交換機の一系列化を実現した。また,将来の規模増大と機能拡張に対し経済的に対応できるようにした。特に,制御方式の面では、交換処理を入出力処理と内部処理に分割し、入出力処理用には機能別にプロセッサを割り当て、内部処理には負荷に応じて複数のプロセッサ(最大24)を割り当てる分散制御技術を開発し、環境に合せて交換機の処理能力を自由に設定できるようにした。
(5) LSIの積極的活用
 新たに開発した高耐圧高精度のICプロセス技術を導入して加入者回路の全電子化を果たした。同時に、時分割スイッチ回路網についても多重度と速度が画期的なスイッチLSIを開発して、交換機の大幅な経済化と小型化を達成した。

 以上のように高機能で経済的なディジタルシステムを開発して通信網のディジタル化を可能にし、高度情報通信システムの実現に貢献できた。

   本開発の成果に対して、電子情報通信学会(旧称:電子通信学会)は、1985年、五嶋 一彦氏 、青木 利晴氏、木村 英俊氏に「電子通信学会業績賞」を贈った。


電子情報通信学会ネットワークシステム研究専門委員会編集


文献

[1] 五嶋一彦、時分割4線式交換回路網の構成法についての考察、1966年、NTT研究実用化報告Vol.15, No.7,pp.1171-1194
[2] 五嶋一彦、倉橋和夫、PCMスイッチフレームの諸形式と適用条件、1967年、電子通信学会誌Vol.42,No.12,pp.2299-2306
[3] 木村英俊,小塚誠一郎,相原憲一、ディジタル市内系同期端局の方式構成、1982年、NTT研究実用化報告,Vol.31,No.11,pp.1967-1979
[4] 青木利晴,千葉由一,伊藤博,三宅勝伸、ディジタル加入者線交換機のハードウェア構成、1982年、NTT研究実用化報告、Vol.31,No.11
[5] 五嶋一彦,松尾勇二、D60/70 ディジタル交換方式、1984年、電子通信学会誌,Vol.67,No.5

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通信
(通信に係わる技術)

関連する出来事

1964年
ディジタル交換の研究開始
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実験機の試作に成功
1977年
実用機の開発開始
1982年
標準システムとして全国導入

世の中の出来事

1985
つくば市で科学万博が開幕する。
1985
電電公社が民営化され、NTTが発足する。

Webページ

博物館等収蔵品

NTT技術史料館(NTT武蔵野研究開発センタ 内)「D60デジタル交換システム%0C%0AD70ディジタル交換システム」

キーワード

交換システム、情報ネットワーク、通信方式、ディジタル交換、ディジタル統合
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