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画像通信における信号処理技術
安田 靖彦
今日のICT社会を支える一つの柱が,多様化する画像・映像メディアであることは誰もが認めるところである.画像通信が対象とする画像メディアは一般に発生情報量が極めて膨大であると同時に,その冗長度が大きく,信号処理によって情報量を削減したり,各種の画像信号変換を行うことが実用化のために不可欠であった本研究では、画像通信の発展の初期の段階から、一貫して画像通信のための信号処理に関する研究開発に取り組んできた。
本研究ではまずデルタ変調を中心にした研究活動を開始し、1961年には、デルタ変調に積分器を取り入れた「デルタ・シグマ変調方式」を創案した。この方式は、従来のデルタ変調の欠点を解消するのみならず、A/D変換方式としての性能・実装両面で優れた画期的なものである。さらにはまた、このデルタ・シグマ変調は、現在ではオーディオ信号のオ-バ-サンプリング方式や高精度A/D変換方式の必須技術となっており、その発明から45年以上経過した今でもなお、世界各国で活発な研究開発が進められている。
本研究では、続いてファクシミリの圧縮伝送方式に関する研究活動を開始し、1968年には、アナログ帯域圧縮方式として必要帯域を約2分の1に圧縮した「アナログ3値VSB方式」を提案し、新聞紙面電送用高精細ファクシミリの実用化装置を開発した。この装置は長期間広く新聞業界において使用され、さらには、1976年に国際電信電話諮問委員会(CCITT)で勧告化されたG2ファクシミリのAM-PM-VSB方式と基本的に同一の方式として、大きな影響を及ぼしている。また、ディジタルファクシミリ発展の初期の段階に、ベル電話研究所に先駆けて高能率な画素順序入換え帯域圧縮方式を提案したり、画質劣化の少ない投影法による線密度変換方式を開発するなど、斯界の研究開発を先導した。
本研究では、さらに静止画像符号化方式の検討を開始し、1980年には、画像信号の「階層的符号化」方式を世界に先駆けて提案した。この階層的符号化は、最初に画像信号を階層化し、階層間の相関を利用した高能率圧縮を図るのみならず、送信時に上位階層から順次転送することで、受信者に即座に画像の概要を伝えることを可能にする。この階層的伝送の概念は、プログレッシブモードとして、ISO/IEC/ITU-T共同の静止画像符号化の国際標準方式JPEG、ならびに2値画像符号化の国際標準方式JBIGに採用されている。また、画像の階層化の概念は動画像符号化にも拡張され、スケーラブル符号化として、ISO/IEC/ITU-T共同の動画像符号化の国際標準方式MPEG-2 Video等に採用されている。さらに、我が国で始めてISDN一回線に相当する64Kb/sの動画像伝送方式を提案し、その後の研究開発の活性化をもたらした。ITU-Tによって国際標準化されたISDN用動画像符号化方式H.261を始め、その後の動画像符号化の発展が我々の日常生活に深く入り込んでいることは周知の通りである。また同時期に、濃淡及びカラ-画像のディザ化処理、デ-タ圧縮方式、画素密度変換方式などに関する広範な研究も行った。
本研究ではこのほかにも、ファクシミリのパケット化伝送方式、多対地テレビ会議のビデオパケット伝送方式、イーサーネットにおける優先度付き伝送方式など、信号処理のみならず、画像通信に関わる多岐に渡る研究開発を行っている。以上に述べたように、本研究では、画像通信における信号処理発展の多くの局面において、独創性と透徹した先見性をもって数々の提案を行い、斯界の先導役としてその研究開発を加速した業績は誠に顕著なものがある。
電子情報通信学会信号処理研究専門委員会編集
本研究の成果に対して、電子情報通信学会は、1987年、安田 靖彦に業績賞とに第3回小林記念特別賞を贈った。
[2] 野村民也, 安田靖彦, 村田悠紀夫, 野辺田繁、新聞紙面電送用広帯域ファクシミリの高速度伝送方式、1969年、生産研究, Vol.21, No.4
[3] 安田靖彦, 高木幹雄, 加藤茂夫, 粟野友文、階層的符号化法による静上画像の段階的伝送および表示、1980年、電子通信学会論文誌, Vol.J63-B, Vol.4
[4] 小町祐史, 飯田一朗, 安田靖彦、優先権の再割付けを行うPriority Ethernet、1983年、電子通信学会論文誌, Vol.J66-D, No.1
[5] 高野洸, 安田靖彦, 猪瀬博、Δ-Σ変調方式によるテレビジョン信号の伝送、1963年、テレビジョン学会誌, Vol.17, No.10
[6] Hiroshi Inose, Yasuhiko Yasuda、A Unity Bit Coding Method by Negative Feedback、1963年、Proceedings of IEEE, Vol.51, No.11
[7] 安田靖彦, 古賀敬一郎、疑似ランダム入替えによるファクシミリの帯域圧縮多重伝送方式、1972年、画像電子学会誌, Vol.1, No.1
[8] 田坂修二, 安田靖彦、ランダムアクセスによる無線パケット通信の一方式、1978年、電子通信学会論文誌, Vol.J59-A, No.8
[9] 加藤茂夫, 安田靖彦、算術符号による中間調画像の高能率符号化、1983年、画像電子学会誌, Vol.12, No.3
[10] Akira Matsunaga, Yasuhiko Yasuda、Video Transmission over Low Bit Rate Channel、1983年、Picture Coding Symposium
本研究ではまずデルタ変調を中心にした研究活動を開始し、1961年には、デルタ変調に積分器を取り入れた「デルタ・シグマ変調方式」を創案した。この方式は、従来のデルタ変調の欠点を解消するのみならず、A/D変換方式としての性能・実装両面で優れた画期的なものである。さらにはまた、このデルタ・シグマ変調は、現在ではオーディオ信号のオ-バ-サンプリング方式や高精度A/D変換方式の必須技術となっており、その発明から45年以上経過した今でもなお、世界各国で活発な研究開発が進められている。
本研究では、続いてファクシミリの圧縮伝送方式に関する研究活動を開始し、1968年には、アナログ帯域圧縮方式として必要帯域を約2分の1に圧縮した「アナログ3値VSB方式」を提案し、新聞紙面電送用高精細ファクシミリの実用化装置を開発した。この装置は長期間広く新聞業界において使用され、さらには、1976年に国際電信電話諮問委員会(CCITT)で勧告化されたG2ファクシミリのAM-PM-VSB方式と基本的に同一の方式として、大きな影響を及ぼしている。また、ディジタルファクシミリ発展の初期の段階に、ベル電話研究所に先駆けて高能率な画素順序入換え帯域圧縮方式を提案したり、画質劣化の少ない投影法による線密度変換方式を開発するなど、斯界の研究開発を先導した。
本研究では、さらに静止画像符号化方式の検討を開始し、1980年には、画像信号の「階層的符号化」方式を世界に先駆けて提案した。この階層的符号化は、最初に画像信号を階層化し、階層間の相関を利用した高能率圧縮を図るのみならず、送信時に上位階層から順次転送することで、受信者に即座に画像の概要を伝えることを可能にする。この階層的伝送の概念は、プログレッシブモードとして、ISO/IEC/ITU-T共同の静止画像符号化の国際標準方式JPEG、ならびに2値画像符号化の国際標準方式JBIGに採用されている。また、画像の階層化の概念は動画像符号化にも拡張され、スケーラブル符号化として、ISO/IEC/ITU-T共同の動画像符号化の国際標準方式MPEG-2 Video等に採用されている。さらに、我が国で始めてISDN一回線に相当する64Kb/sの動画像伝送方式を提案し、その後の研究開発の活性化をもたらした。ITU-Tによって国際標準化されたISDN用動画像符号化方式H.261を始め、その後の動画像符号化の発展が我々の日常生活に深く入り込んでいることは周知の通りである。また同時期に、濃淡及びカラ-画像のディザ化処理、デ-タ圧縮方式、画素密度変換方式などに関する広範な研究も行った。
本研究ではこのほかにも、ファクシミリのパケット化伝送方式、多対地テレビ会議のビデオパケット伝送方式、イーサーネットにおける優先度付き伝送方式など、信号処理のみならず、画像通信に関わる多岐に渡る研究開発を行っている。以上に述べたように、本研究では、画像通信における信号処理発展の多くの局面において、独創性と透徹した先見性をもって数々の提案を行い、斯界の先導役としてその研究開発を加速した業績は誠に顕著なものがある。
電子情報通信学会信号処理研究専門委員会編集
本研究の成果に対して、電子情報通信学会は、1987年、安田 靖彦に業績賞とに第3回小林記念特別賞を贈った。
文献
[1] 猪瀬博, 安田靖彦, 村上純造、符号化変調による一通信方式・Δ・Σ変調、1961年、電気通信学会論文誌, Vol.44, No.11[2] 野村民也, 安田靖彦, 村田悠紀夫, 野辺田繁、新聞紙面電送用広帯域ファクシミリの高速度伝送方式、1969年、生産研究, Vol.21, No.4
[3] 安田靖彦, 高木幹雄, 加藤茂夫, 粟野友文、階層的符号化法による静上画像の段階的伝送および表示、1980年、電子通信学会論文誌, Vol.J63-B, Vol.4
[4] 小町祐史, 飯田一朗, 安田靖彦、優先権の再割付けを行うPriority Ethernet、1983年、電子通信学会論文誌, Vol.J66-D, No.1
[5] 高野洸, 安田靖彦, 猪瀬博、Δ-Σ変調方式によるテレビジョン信号の伝送、1963年、テレビジョン学会誌, Vol.17, No.10
[6] Hiroshi Inose, Yasuhiko Yasuda、A Unity Bit Coding Method by Negative Feedback、1963年、Proceedings of IEEE, Vol.51, No.11
[7] 安田靖彦, 古賀敬一郎、疑似ランダム入替えによるファクシミリの帯域圧縮多重伝送方式、1972年、画像電子学会誌, Vol.1, No.1
[8] 田坂修二, 安田靖彦、ランダムアクセスによる無線パケット通信の一方式、1978年、電子通信学会論文誌, Vol.J59-A, No.8
[9] 加藤茂夫, 安田靖彦、算術符号による中間調画像の高能率符号化、1983年、画像電子学会誌, Vol.12, No.3
[10] Akira Matsunaga, Yasuhiko Yasuda、Video Transmission over Low Bit Rate Channel、1983年、Picture Coding Symposium
分野のカテゴリ
通信
(電子情報通信の基礎・境界技術)
(電子情報通信の基礎・境界技術)
関連する出来事
データなし
世の中の出来事
- 1987
- 国鉄が分割民営化され、JRが発足する。
- 1987
- 利根川進がノーベル医学・生理学賞を受賞する。
Webページ
データなし
博物館等収蔵品
データなし
キーワード
画像通信、デルタ・シグマ変調、画像符号化、ファクシミリ、階層的符号化