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21世紀を目指した新しい新幹線総合システム(COSMOS)の開発

  • 写真なし五十嵐 昭夫
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JR東日本新幹線路線網

図1 JR東日本新幹線路線網

計算機システムの課題と対応

図2 計算機システムの課題と対応

全体システム構成

図3 全体システム構成

COSMOSの機能構成

図4 COSMOSの機能構成

新しい予想制御方式の運転整理

図5 新しい予想制御方式の運転整理

新しい指令室のレイアウト

図6 新しい指令室のレイアウト

 JR東日本は東北/上越新幹線向きの新しいトータルシステムとしてCOSMOSを開発した。


1 緒言


 JR東日本の新幹線は、営業中の東北・上越新幹線に加え、1997年には建設中の北陸新幹線(高崎~長野間)が開業する(図1)。また、1982年6月の東北新幹線の開業以降これまでの14年間に、東京乗り入れ等の営業区間の拡大、新しい車両の投入、新駅の開業、スピードアップ、奥羽線山形までの新幹線・在来線直通運転など新しい施策の展開を積極的に行って来た。これらの効果もあり輸送量は順調に増加しており、今後ともニーズに合ったサービスの提供を続けさえすれば、大きな伸びは期待できないまでも安定的な増加傾向で推移するものと考えられる。新幹線は高速で安全・快適な輸送機関としての地位を確立し、沿線地域社会の発展にも大きく寄与しており、新幹線網の拡大や新駅の設置、列車の増発、到達時分の短縮等のサービスの質的改善への要望は強いものがある。

 一方、この新幹線の発展を支えてきたコムトラック(COMTRAC)、スミス(SMIS)等のコンピュータシステムをみると、この14年間大きな改良も行わなかったため量的にも、質的にも限界になってきた。また、単一路線、単一車種を前提にするなど25年前の思想によるものであり、機能的にも今後の新しい施策への対応が困難になった。そこで、最新のコンピュータ技術と情報処理技術を取り入れ、21世紀に通用するシステムを目指し抜本的なシステム革新に取り組むこととした。


2 新しいシステムへのニーズ

 (1)拡張性と柔軟性
 新幹線を取り巻く環境の変化、特に高速道路や航空網の整備が進むなかでの他交通機関との競争・共存関係を見極めた輸送施策の展開と、移動手段の選択の可能性を前提にした顧客ニーズの多様化、個性化に合致した輸送サービスの提供が重要である。そこで、システムにも新しい施策やサービスへの拡張性と柔軟な追随性が求められる。

 具体的には、

 ①計画中の北陸新幹線や秋田までの新在直通運転及び将来の新幹線網の拡大への対応

 ②スピードアップ、運転間隔の短縮、分割・併合運転の拡大等の輸送施策への対応

 ③新しい車両の投入、新駅の開業、運転設備の改善への対応

などがある。

 (2)業務の近代化と効率化
 新幹線業務については、運行管理や情報管理などはシステム化されたものの大部分は旧態依然とした手作業に頼っており、情報交換も電話とペーパー中心であった。そして、従来のシステムは旧来の縦割り的業務管理体制に基づきそれぞれが完全に独立したシステム構成であった。当然システム間の情報の互換性はなく、場合によっては同じ情報を二重に入力をする必要があるなど非常に非効率であった。

 加えて、若年労働力の確保が困難な時代を目前にし、労働集約的な業務実施体制から脱皮するためシステム化を促進し、効率的な業務実施体制の構築が重要な課題となってきた。

 具体的には、

 ①新幹線の運行に関する全ての計画業務のシステム化
 ・列車設定、車両運用、運転士・車掌運用及び車両検査計画の自動化
 ・設備保守作業、車両基地構内作業及び車両部品管理計画の自動化
 ②情報伝達の自動化と情報の共有化
 ・計画部門(本社・支社)と実施部門(現場)相互間
 ・運転部門(指令所・運転所・車掌区・車両基地)、設備部門(保線区・電力区・信号通信区)及び営業部門(駅)相互間
 ・各指令及び各現場相互間
 ③情報処理のシステム化と情報管理の一元化
 ・設備情報としての電気軌道総合試験車データ及び各保守現場の設備修繕データ
 ・車両と車両部品の検査・故障データ
 ・信号・通信設備の故障データ、ATC軌道回路データ及び継電連動装置の動作状況データ
 ・防災情報としての地震、風速、雨量、積雪及びレール温度データ
 ④現場における現場支援
 ・情報の抜粋、照合作業の廃止
 ・必要な情報の自動出力と自由な加工
 ・必要資料の自動作成
などである。

 (3)運行の安全性と安定性の向上
 安全性の確保は最も大切な命題であり、列車運行の安全性についてはさらなる向上を図ることはもちろんのこと、保守・保全作業の安全性についても最大限確保する必要がある。また、正常な運行を阻害する要因の監視体制の強化と正常な運行が阻害された場合の復旧体制の強化も運行の安定性の確保には重要である。

 具体的には、

 ①人為的ミスの排除
 ・計画作成段階における整合性チェック機能の充実と計画伝達の自動化
 ・計画変更情報の伝達経路のスリム化
 ②運行管理(指令)体制の強化
 ・指令体制の簡素化(地区指令の廃止)
 ・状態監視業務から異常時対応の判断中心業務への変革
 ・指令と乗務員のみによる列車運行が可能な仕組みの実現
 ・指令と保守者のみによる保守作業が可能な仕組みの実現
 ・列車運行情報や沿線防災・設備情報の指令での一括管理
 ・車両基地内の進路構成の自動化と基地内在線状況の指令での把握
 ・各指令間での情報の共有化
 ③指令員支援機能の強化
 ・計画変更手続きのシステム化
 ・進路確認作業や作業時間帯管理手続きの自動化
 ・「予想ダイヤ機能」によるダイヤの回復手配支援
 ・保守作業の申込み・受け付け手続きの自動化
 ・各種機器の集中監視と遠隔操作
 ・定期的な指令日誌や報告用資料の作成及び統計業務の自動化
 ・列車速度の制限や設備点検範囲の提案
などである。

 (4)サービスの向上
 安全・正確で快適なサービスの提供が最も基本的で大切なことはいうまでもないが、豊富な営業情報や運行状況情報、特に事故時等における運転再開、遅延見込み、接続変更情報を時期を得て提供することも重要である。情報提供機器と提供すべき情報内容の管理をシステム化し、有効な情報を効果的に提供できる体制作りが求められていた。


3 「COSMOS」の開発思想

 (1)全体構想
 前述のような様々なニーズに応えるためには、これまでのような特定の業務分野を対象にし機能的に独立したシステム構成では到底無理である。そこで、新幹線に関する全ての業務を対象にしたトータルシステムを開発することとした。

 一口に「全ての業務を対象にする」といっても、鉄道事業の特性から次にような課題がある。

 ①対象が広範囲に連続又は独立して、かつ多数介在しているために、広域制御・広域ネットワークシステムとなる。

 ②典型的な装置産業であり、車両、線路、電力、信号通信等多種・多様な設備を総合的に制御・管理する多機能システムとなる。

 ③安全性を至上とする列車の運行に直接かかわるために、絶対的な信頼性が求められる。また、より高い危機管理機能と危機回避能力そして危機対応能力が求められる。

 ④輸送サービスは即時財であることから、高応答性を確保しないとサービスの価値を無にすることにもなり、経営的損失を増大させる。

 ⑤労働集約的産業と呼ばれるだけあり、新幹線に携わる関係者は多いうえに、担当する業務内容も多様である。年齢や能力的に幅のある多数のエンドユーザーを満足させる操作性を実現する必要がある。

 ⑥24時間フル活動の無停止型システムとする必要がある。

 このような事業の特性からの課題解決に加え、「計画から実施そして実施後のフローまで一貫した業務の流れを作る」ことと、「人間とシステムの役割を明確にする」ことをテーマとし、従来のシステム構築の考え方にとらわれることなく、新しい発想のもと可能な限りのニーズの取り込みと最新レベルのシステムを目指した。

 (2)計算機システムの開発思想
 中央指令室と駅等の各現場を結ぶ広域大規模システムであり、システム構成上もネットワーク構成上も強固なシステムとする必要がある。また、信頼性上からみても保守性上から見ても同様である。特に、本システムの中心となる運行管理システムについては、信頼性、保守性及システム構成の容易性、そして駅での業務の効率化の実現性等の観点から総合的に判断した結果、自律分散構成のシステムとすることとした。

 ネットワーク構成は、ノード間距離上ループ構成が困難なためスター状構成とした。このため、中央ノードの信頼性、保守性は超高度な水準を確保するとともに、ネットワークのバックアップ構成を用意することとした。

 加えて、システムインターフェイスのオープン化を実現するため、オープンなイーサネットインターフェイスに統一するとともに、構成機器はオープンな汎用機器とすることにより、将来のシステム拡張ニーズに対して部分更新しやすくするなどシステムに拡張性をもたせることとした。

 図2に、計算機システムの課題と対応を示す。


4 システム構成の特徴

 (1)全体構成
 新幹線に関する業務全般をカバーする本システムは、業務単位ごと構築する8つのサブシステムから構成されている。これらを中央で結合する中央LANより、情報の共有化と各サブシステム間の情報交換を実現した。
図3に、システムの全体構成を示す。

 ハード構成の基本的な考え方は、以下の通りである。

 ①中心となる運行管理システムは、駅業務の効率化、制御応答性の向上のために従来のCTCを介した集中制御方式を止め、各駅に制御機能を分散した自律分散型システムとした。そして、各駅及び中央の計算機システムは2重系システムとした。

 ②中央と各駅を結ぶネットワークは、64Kbpsの高速デジタル回線を使用しスター状の結合とした。このため、中央の通信制御計算機にはフォールトトレラント計算機を使用した。

 ③中央指令室のマンマシーンは、多角的な情報提供と異常時の柔軟な対応が可能なウインドウ機能を持ったWSで構成した。

CTC:Centralized Traffic Control

 (2)自律分散システム
 自律分散システムでは、進路制御と最低限の運転整理機能を駅システムに持たせたため、仮に中央システムがダウンしたとしても駅システムだけで列車運行の続行が可能となった。そして、中央と駅間、各駅間及び中央WS間の情報伝送は複雑多岐にわたるが、伝送方式に自律分散方式を採用することにより効率的で拡張性に優れる伝送を実現した。

 (3)リモート保守機能
 広域に分散されたシステムであり、万一のトラブル発生時のトラブルシューティングや保守の迅速化のため、中央からリモートでデータ収集及びプログラムやデータの伝送と入れ換えができるようにした。広域大規模分散システムにおけるソフトのバージョン管理、セキュリティ管理、現行と改正の2元管理等についての保守を有効に行える実用的なリモート保守機能を備えさせた。


5 システムの機能と特徴

 (1)全体機能構成
 新幹線の業務全般の計画と管理を対象にするという面的広がりに、計画部門から現場第一線までという業務実行上の縦軸と、計画から実施、後フォローさらには次期計画までという時期経過に伴う縦軸を通し、それらを情報の共有化で結合したトータルシステムを構築した。全ての機能について、ユーザーの立場に立ち構築したため大幅な効率化を実現できた。

 機能構成図を図4に示す。

 以下に、本システムの中心システムである運行管理システムの代表的新機能について述べる。

 (2)予想制御機能を持った新しい運転整理
  ア 従来の問題点

    列車ダイヤ乱れ時のダイヤ回復業務を運転整理業務というが、これは指令員にとって最も重要な業務である。これまでは、列車乱れ時においては紙の計画ダイヤを基に回復案を考え、ダイヤ変更計画を一つ一つCRTから入力する必要があった。このため通常時も紙の計画ダイヤに列車の運行状況を色塗りし常時管理しておく必要があった。このような作業のため小幅な乱れ時は良いが、大幅な乱れ時には質、量ともに大変な作業となり指令員の大きな負担になり、回復に時間を要していた。

  イ 新しい予想制御方式

    ①基本的には、指令員が紙の上で行っていた作業をワークステーション(WS)の画面上で実現することにした。ダイヤの計画スジに対して実績スジと今後の予想スジをリアルタイムで表示した。(図5

    ②ダイヤスジの矛盾点をその理由とともにスジ上に表示し、指令員の運転整理の支援手段とした。計算機側でダイヤスジの矛盾を自動的に解消することもある程度までは可能であるが、指令員各自により微妙にその手法は異なり、指令員の想定しない変更を計算機側で行うことはむしろ混乱を引き起こす要因にもなるため、あくまでも指令員の判断と指示業務の強力な支援手段に徹することにした。

    ③また、列車の到着、出発時のおける使用番線の競合等の制御もWS上の予想制御の結果を各駅の進路制御機能に伝えることで、指令員のWS上に表示されたスジダイヤ通りの制御が行えるようにした。これにより指令員に安心感を与えるとともに、従来の個々のポイントでのローカルな自動判断をするための制御理論をシンプルでわかりやすくすることができた。

    ④指令員の行った変更は、列車、各駅、関係指令員、営業や運転の関連現場に速やかに伝達する必要があるが、これも運転整理機能のなかで同時に実施するようにした。

  ウ 効果

    予想制御機能を持ったWS上の運転整理機能により、指令員の運転整理の作業の負担を大幅に減らすとともに、列車乱れ時のダイヤの回復に要する時間を大幅に減らすことができた。しかも、従来は列車乱れ時には通常の指令員だけでなく応援要員を加勢して対応していたが、それも大幅に減らすことができた。

 (3)中央臨時速度制御
  ア 従来の手法

    新幹線においては、列車の安全運行のために臨時速度制御機能を持っており、雨、風、雪などの沿線状況に合わせて臨時に速度制御をかけている。従来は駅員が駅に設置したてこを操作して実行していた。

  イ 新しい中央臨速制御

    臨時速度制御を駅員を介さず、中央の指令員が直接できるようにした。万一誤って低速で徐行すべきところ通常速度の指示をしたりすると、大変危険な事態を引き起こすことになる。そこで、信号制御と同様に安全確実なフェール・セーフな制御方式をとる必要があるため、指令員の指示は各駅のフェール・セーフコントローラで3重系照合出力し、出力結果を中央のマンマシンに表示させ速度制限が確実にかかっていることを指令員が常時確認できるようにした。

  ウ 沿線防災機能

    臨時速度を設定する必要が出てくる沿線の風、地震等の情報は集中情報監視システムとオンライン接続することにより、時系列で状況変化を自動検知し基準値に達すると臨時速度制限提案を行う。

また、地震発生時の巡回範囲も自動提案するようにした。

 (4)保守作業管理
 新幹線における保線等の保守作業の安全は、夜間の列車が走行しない時間帯を「保守作業時間帯」、昼間の列車走行時間帯を「運転時間帯」として明確に分けることにより確保している。このため、最終列車の運転が終わった駅から「保守作業時間帯」に切り替えていく作業がある。また、早朝の走行開始前に「運転時間帯」に切り替えた時に現場設備に異常がないかチェックするために「引き試し」と称する確認作業を行っていた。この一連の時間帯切り替えに伴う業務を自動化することにより、指令員の夜間の負担を大幅に軽減することができた。

 保守作業時には、機材の運搬や各種の点検作業等のために保守用車を走行させるが、このための進路制御を現場の保守員が直接自分で行えるよう無線のハンディー端末からの進路要求受け付けができるようにした。

この制御も安全・正確な制御が必要であり、フェール・セーフコントローラを通した制御としている。これによっても、夜間の指令員と駅社員の負担を大幅に軽減することができた。

 (5) 新しい指令室レイアウト
 従来の指令室は、CTCの大型表示盤を中心に雛段形式のレイアウトであった。新しい指令室では最新のWSにあらゆる情報を表示でき、全指令員が情報を共有できる仕組みを作ったことで大型表示盤は必要なくなった。この結果、図6に示すようにあたかもオフィスのような指令室になった。レイアウトも従来の雛段形式から、業務グループに分かれた円卓配置になった。

 WSの操作も指令員同士で強調してできるようになり、指令室全体の機能性が大きく向上した。


6 結言


 本システムは、新幹線に関する全業務即ち輸送計画、運行管理、車両管理、設備管理、電力管理から保守作業管理までの全体をシステム化したものであり、従来のシステムに比較し格段に対象範囲が拡大している。

 運行管理に関連する機能は全て中央の指令室に集中し、指令の機能性の向上と指令業務の効率化を図るとともに、情報の共有化と一元管理化により危機管理能力の強化を図った。

 技術的には、運行管理システムにおいて予想制御による全く新しい運転整理機能を実現したことにより、列車の乱れ時に強いシステムとなった。また、中央からの臨時速度制御機能あるいは保守作業の管理、保守用車の現場での進路設定機能等の実現により、全体の業務が効率的で確実かつ安全なものとなり、新幹線の安定輸送に貢献することになった。そして、旅客案内機能の充実により、お客様に対してきめ細やかなサービスが提供できるようになった。

 本システムは、1995年11月に使用開始したが、順調に稼動中である。今後、北陸新幹線長野開業や秋田新幹線開業対応等のシステム増強があるが、これらには十分対応しうるシステムが構築できた。さらに、21世紀にむけて新幹線システムの発展に貢献できるものと期待される。


文献

[1] 榎本、外、東北・上越新幹線運転管理システム(コムトラック)、1981年、日立評論
[2] 関、外、東海道・山陽新幹線運転管理システム「コムトラック」、1988年、日立評論
[3] 北原、外、広域分散型運行管理システム、1993年、計測と制御
[4] 北原、外、乗客サービスの向上と指令・駅業務の革新を目指した東京圏輸送管理システム、1994年、日立評論
[5] A.Igarashi、The New Shinkansen System、1995年、Rail International
[6] K.Takemura,Othere、The New Shinkansen Integrated System、1995年、IRSE(Institute of Railway Signal Engineers)
[7] 関隆司、JR東日本のニュー新幹線システム1~5、1995年、JRGAZETTE

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COSMOS、予想制御、フェール・セーフ、電気鉄道、コンピュータシステム、ワークステーション
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