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超高密度鉄道の列車群を自律分散制御する東京圏輸送管理システム(ATOS)の開発

  • 写真なし北原 文夫
  • 写真なし吉川 政之
  • 写真なし藤原 和紀
輸送指令卓の構成

写真1 輸送指令卓の構成

出発時機表示器

写真2 出発時機表示器

発車標(電光表示器)

写真3 発車標(電光表示器)

情報端末

写真4 情報端末

保守作業用端末

写真5 保守作業用端末

導入路線図

図1 導入路線図

システム構成図

図2 システム構成図

1 はじめに

 東京圏輸送管理システム(ATOS:Autonomous Decentralized Transport Operation Control System)は、超高密度運転線区である東京圏の在来線において、輸送管理業務の近代化を推進するために開発された世界最大級の自律分散システムである。第1号線区である中央本線への導入(1996年12月)を皮切りに、2008年3月時点で、東京圏の19線区(約1,050km)で稼動しており、現在も導入を拡大している。(図1

 このシステムは、従来の鉄道運転業務を抜本的に改革するため、最先端の情報・通信技術と列車運転の制御技術の粋を集めて開発を行い、形態が複雑な超高密度列車群を全自動で制御できる方式を初めて確立し、新しい鉄道信号技術の潮流を生み出した。


2 システム導入にあたっての課題

 ATOSが導入されるまでの間、JR東日本の東京圏での主要線区においては、鉄道輸送の管理を「人」に依存しており、駅では社員が手動で信号機の操作を行っていた。

 当時、JRにおける鉄道輸送を管理するシステムには、CTC(列車集中制御装置)及びPRC(自動進路制御装置)があり、地方線区を主体に導入を拡大してきたが、以下のような課題があり、東京圏に導入することは難しかった。
 (1)大規模な駅の運転業務を省力化できない
CTCは中・小規模駅の省力化を目的としており、技術的に難しい課題を抱える大規模な駅は自動化の対象外としていたため、大規模な駅では多数の「人」に依存したままの形態であった。
 (2)列車ダイヤの回復に時間がかかる
CTC線区の大規模な駅では、指令員が直接進路を制御できないため、事故等が発生した場合の列車ダイヤの回復は大変な作業になっていた。また、コンピュータが支援するPRCでも、列車ダイヤの修正を行うための入力や操作に時間がかかり、列車が多い線区で人身事故等の輸送障害が発生すると、乱れた列車ダイヤが回復するまでにかなりの時間を要していた。
 (3)旅客案内サービスを継続することができない
列車運転を管理するコンピュータに、駅に設置した列車の発車時刻や種別(特急・普通など)をお客さまに案内するための電光表示器(発車標)や自動放送装置を接続した例は多かったが、列車ダイヤが大きく乱れると、案内表示や自動放送が追随できず、発車標や自動放送を停止しなければならない事象が発生していた。
 (4)列車運行に係わる運転情報の共有化を図ることができない
東京圏では、鉄道の運行に従事する駅・乗務員・車両メンテナンス等の社員や区所が多く、業務に必要な運行状況やダイヤ変更等の情報(運転運転)の量も莫大であったが、それらに見合うだけの情報を伝達するための手段に欠けていた。
 (5)線路保守作業の安全を「人」に依存している
JR東日本の在来線では、夜行列車や貨物列車が夜間に走るため、ルールを設けて列車と列車の合間(列車間合い)に線路保守作業を行ってきた。特に東京圏では、線路保守作業量が莫大であり、その管理を指令員、駅および保守部門の「人」の注意力に依存した形態で行うことには限界があった。そのため、人間のミスによる列車間合いの間違え等から、作業の安全性が損なわれることがあった。


3 システムの開発コンセプト

 従来システムの課題を克服するため、輸送管理業務を抜本的に改善し、且つ次世代にふさわしい鉄道輸送管理システムを構築するものとして、以下の開発コンセプトを掲げた。

①輸送管理業務を駅中心から指令中心へ移行する

②お客さまに対して、列車の行き先、通過列車を案内する等、きめ細かな案内を行う。

③駅・乗務員区における運転情報の共有化を図る。

④「人」の注意力に依存していた線路保守作業の管理をシステム化し、線路保守作業の安全性を向上する。

 また併せて、新しいシステム基盤を最新の情報技術(汎用技術及びオープン技術)で構築するために、以下の技術的コンセプトを掲げた。

①超高密度線区での全自動進路制御を実現する

②情報技術の活用により鉄道信号システムを革新する

③自律分散システムを採用する

④システムを段階的に構築する


4 システム構成

 ATOSの全体構成は、大きく「中央システム」と「駅システム」に分けられており、相互を結合する光ネットワークと、多数のワークステーション、パソコン、コントローラ等の汎用コンピュータ群で構成している。列車制御の核となるコンピュータは、従来の鉄道輸送を管理するシステムで見られた中央集中型の制御方式ではなく、各駅に駅装置用のコンピュータ(新型電子連動装置)を分散配置した自律分散方式を採用し、駅単独のシステム構成だけでも列車の進路制御機能や線路保守作業の管理機能を有するとともに、万一、中央装置や光ネットワークが故障して駅システムが切り離されても、列車の進路制御が継続できる構成となっている。(図2


5 システムの機能および特徴と成果
 (1)輸送管理業務の駅中心から指令中心への移行
①指令室に列車の位置、遅れ時分、信号機の制御情報、さらに線路保守作業の状況等、列車の運行に必要な情報を全て表示できるため、指令員は駅社員を介さずに、自分の担当する範囲の全列車を管理することが可能となった。(写真1

②列車ダイヤの変更が必要な場合には、指令員がグラフィック・ディスプレイ(GD)装置に表示されている列車ダイヤをマウスでクリック操作するだけで、列車の運休、時刻変更等のダイヤ修正を容易に行うことが可能となり、列車ダイヤが乱れた際の回復時間が大幅に短縮された。

③従来、指令員が無線や駅社員を介して行っていた乗務員への指示は、各駅のホームに設置した表示用の装置(出発時機表示器)にその内容を表示する方法により、指令員からの指示をシステム化した。(写真2

④出発時機表示器を設置した結果、事故等が発生した場合に、速やかに指令員の意図する駅に列車を停止させることや、ラッシュ時間帯での列車の出発間隔の調整にも使用できるなど、超高密度線区の列車群を管理する新しい手法として威力を発揮した。
 (2)お客さまへのサービス向上
ATOSの中央装置と接続した電光表示器(発車標)と自動放送装置を各駅に設備することにより、列車ダイヤが乱れた場合でも、ATOSで進路制御する列車に対しては旅客案内が追随し、最新の旅客案内情報を提供できるため、お客さまへの案内を充実することができた。(写真3
 (3)運転情報の共有化
①指令室に集まった列車運行に関する情報は、駅、乗務員区、メンテナンスセンター等に設置された端末(情報端末)を介して社員に情報提供することで、列車の運行状況、各駅の列車ダイヤや列車の在線位置等の情報共有化を図った。(写真4

②JR東日本の列車ダイヤデータベースである「輸送総合システム(IROS:Integrated Railway Operation System)」と接続を行い、列車ダイヤデータベースの一元化を行った。

③列車ダイヤデータベースの一元化により、列車の運転に関する情報が一旦データ入力されれば、乗務員が使用する携帯用の時刻表、駅社員が使用する列車運転に関する帳票類やATOSが使用する進路制御用のデータなど、最終的なアウトプットまで「人」が介在しない高品質なデータを一貫して使用することが可能となり、画期的な列車運転の仕組みが完成した。
 (4)線路保守作業管理のシステム化と安全性向上
①従来、保守作業員は、線路沿線に設置された電話を使用して駅社員又は指令員に線路保守作業に着手又は終了したことを伝えていたが、無線機又は電話に接続した保守作業用の端末から、直接システムに作業の登録を行う方式を採用した。(写真5

②システムに線路保守作業が登録されると、作業区間に列車が入らないように自動的に信号機を停止状態に制御するため、飛躍的に保守作業の安全性が向上した。

③従来、線路上を走行する保守作業用の車両は、作業員が駅社員等に電話で連絡をして、走行したい進路を要求していたが、作業員が保守作業用の端末から直接システムに進路を要求する方式を採り入れた。


6 システムの技術的な特長と成果
 (1)超高密度線区での全自動進路制御の実現
①従来技術では不可能であった、多くの線区が分岐・合流している大規模駅のコンピュータによる自動進路制御を可能とした。

②ダイヤ修正機能と出発時機表示器により、ダイヤ乱れ時でも、指令員が超高密度線区の列車群を自在に操れるシステムを実現した。

③これらにより、列車ダイヤが乱れた後のダイヤ回復時間が、システム導入前と比較して大幅に短縮した。
 (2)情報技術の活用による鉄道信号システムの革新
①従来の鉄道信号技術は、フェールセーフの課題を専用のハードウェアで実現していたために制約が多かったが、最新の汎用情報技術を用いたことで、世界市場で年々進化を続けている情報技術の高度化、低価格化、小型化などのメリットを鉄道に取り込むことが可能となった。

②汎用小型計算機によるフェールセーフ方式を確立した新型電子連動装置を開発・実用化した。

③指令室と駅との間は、大規模な運行管理ネットワーク(100Mbpsの光回線を使用)で接続を行い、列車の運転を行うための制御情報のほか、旅客案内に使用する情報、社員に提供する運転情報の授受等を自由に行うことが可能となった。

④汎用小型計算機の採用により装置の柔軟性が増し、線路保守作業の管理等をシステム化することが可能となった。

⑤汎用情報技術の活用により、システムの拡張・更新に対しても柔軟に対応することが可能となった。
 (3)自律分散システムの採用
「4 システム構成」の項を参照。
 (4)システムの段階的構築
鉄道輸送の性格上、列車運転を継続しながら段階的にシステムを構築する必要があることから、以下の機能を研究・開発した。

①中央装置へ接続しない場合でも、駅装置単独の状態で運転を可能とする機能

②駅が稼働(オンライン)後に隣接駅、線区中央装置(テスト)と段階的接続を可能

とする機能(テスト機能)

③リモートメンテナンス機能

④段階的拡張に対応したネットワーク結合装置(ゲートウェイ)でのデータフィルタリング機能

これらの機能により、24時間連続運転が前提で、停止することができない大規模システムを段階的に構築する手法を確立することができた。


7 まとめ

 このようにATOSは、近年の情報技術の急速な進歩を背景とした、多くの技術開発の成果により実現したものであり、超高密度鉄道における輸送管理の近代化に寄与するとともに、鉄道制御システムに変革をもたらした画期的なシステムである。

 本研究の成果に対して、電気学会は、1999年、北原 文夫 、吉川 政之 、藤原 和紀に電気学術振興賞進歩賞を贈った。

文献

[1] 北原文夫(JR東日本),解良和郎(日立)、広域分散型運行管理システム、1993年、(社)計測自動制御学会,計測と制御,Vol.32,No.7
[2] 北原文夫(JR東日本),宮崎孝俊(〃),渡辺敬一郎(日立)、東京圏輸送管理システムにおける新電子連動装置(次世代に向けた新しい信号システムの一方策)、1994年、(社)日本鉄道電気技術協会,鉄道と電気技術,Vol.5,No.1
[3] 北原文夫(JR東日本)、運行管理システムの技術開発と将来展望、1995年、(社)日本鉄道技術協会,JREA,Vol.38,No.1
[4] 北原文夫(JR東日本),岩本孝雄(〃),伊藤聡(〃),藤原和紀(日立),藤原道雄(〃)、超高密度鉄道の列車群を自律分散制御する東京圏輸送管理システムの開発、1998年、(社)電気学会,産業応用部門誌,Vol.118-D,No.4
[5] 小野力(JR東日本),清宮英雄(〃),海東健一(〃),菊池邦行(日立),角本喜紀(〃)、広域鉄道システムにおけるソフトウェア保守のための分散管理方式、1998年、(社)電気学会,産業応用部門誌,Vol.118-D,No.5
[6] 山之内秀一郎(JR東日本)、鉄道情報システムにおける技術革新、1999年、(社)電気学会,学会誌,Vol.119,No.2
[7] 北原文夫(JR東日本)、自律分散型列車運行管理システム、1999年、(社)電気学会,学会誌,Vol.119,No.2
[8] 解良和郎(日立)、新しい保守システム、1999年、(社)電気学会,学会誌,Vol.119,No.2
[9] 北原文夫(JR東日本),吉川政之(〃),加藤彰(〃),藤原道雄(日立),戸次圭介(〃)、汎用情報技術でフェールセーフを実現した電子連動装置の開発、1999年、(社)電気学会,産業応用部門誌,Vol.119-D,No.11
[10] 北原文夫(JR東日本),上條恵司(〃),川岸紀夫(〃),戸次圭介(日立),解良和郎(〃)、軌道回路予約論理に基づく鉄道用線路保守作業管理システムの開発、2000年、(社)電気学会,産業応用部門誌,Vol.120-D,No.1

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鉄道輸送、鉄道信号、自律分散システム、アシュアランス、フェールセーフ、電気鉄道、コンピュータシステム、コンピュータネットワーク、データベース、ヒューマンインタフェース
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