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ハイビジョンMUSEデコーダ用LSI技術

MUSE方式帯域圧縮の原理

図1 MUSE方式帯域圧縮の原理

MUSEデコーダの機能ブロックおよびLSIのチップ構成

図2 MUSEデコーダの機能ブロックおよびLSIのチップ構成

MUSEデコーダの外観(1)

図3 MUSEデコーダの外観(1)

MUSEデコーダの外観(2)

図4 MUSEデコーダの外観(2)

MUSEデコーダ用LSIチップの機能と特長

表1 MUSEデコーダ用LSIチップの機能と特長

1 技術開発の背景

 ハイビジョン放送を放送衛星1チャンネルで実現するために開発されたMUSE(Multiple Sub-Nyquist Sampling Encoding)伝送方式は、ハイビジョン信号(映像:20MHz×3 (RGB))をディジタル信号処理技術を駆使して8.1MHzにまで圧縮し、これをFM変調で伝送するもので、NHKは筑波科学博(1985年)、BS2bでの伝送実験(1986年)、ソウルオリンピックでの中継実験(1989年)を経て、1989年6月、ハイビジョン定時実験放送を開始した。このような中、ハイビジョン放送の早期実用化と普及のためには受信機の小型化が不可欠とされ、MUSE受信機用のLSIチップセットの開発が急務となった。

2 技術的課題

 MUSE伝送方式は映像信号を静止画領域、動画領域に分け、サンプリングによる折り返し信号が原信号の周波数帯域内に入り込むような低いクロック周波数で、時空間の3次元においてオフセットサンプリングして信号を間引き、これをアナログサンプル値として伝送するものである(図1)。

 このように時空間3次元で間引かれて伝送されたサンプル値から原画像を歪み無く復元するには、受信側で極めて正確な信号処理が必要で、実験検証用のMUSEデコーダは汎用ICを約2000個使用し、装置は大規模で、消費電力は約1kWであった。一方、当時のCMOS LSI技術は最小加工寸法が1.5μmで、民生用LSIの動作速度は30MHzが上限、メモリの容量は1Mビットが主流であった。

 上記状況の中、MUSEデコーダのように48.6MHzという民生用では例を見ない超高速・大規模なシステムのLSI化には最先端のLSI設計・製造技術が必要であった。また、高度な演算処理機能を実現するには全ディジタル信号処理技術が不可欠で、高性能なA/Dコンバータや大容量画像メモリの他、スキューシンメトリのための信号内挿用フィルタ、正確な動き量の検出、非線形処理用LSI等を新たに開発する必要があった。なお、クロックの位相は97MHzの精度が要求された。

3 開発体制と経過

 上記のような高性能のLSIチップセットを短期間に開発するには、1社単独での開発は極めて困難で、NHKは1986年末、国内家電・半導体メーカー各社にLSIの共同開発を呼びかけ、1987年1月から東芝、NEC、日本電気、松下電器産業の3社で、その後、シャープ、日立、ソニーの各社が加わって分担開発することとなり、25品種のLSI(エンジニアリングサンプル)を約2年という極めて短期間に開発するに至った。

4 開発LSIの特長

 開発した主なLSIの特長は以下の通り。
 1)最先端CMOS LSI:1.2~1.5μmCMOS技術使用、ラインメモリ オンチップ化、小規模化回路ディジタルフィルタ、ROMオンチップ化、特性の折れ線近似
 2)大容量画像メモリ:4Mb(960画素×568ライン×8b)、35MHz動作、垂直動き補正可、TV同期信号でリード/ライト制御、1μmCMOS技術使用
 3)高性能A/Dコンバータ:10b出力、20MHz動作、入力信号帯域10MHz、非直線性誤差±1 LSB、直並列変換:新補間方式、S/H回路オンチップ化
 MUSEデコーダの機能ブロックとLSIチップの構成を図2に、各LSIの機能・特長等を表1に示した。なお、LSIの機能を汎用マイコンで制御して複数用途に適用すれば開発チップ数を低減することができるため、新たに通信用シリアルバス(通称MUSEバス)を提案した。本シリアルバスは一般に公開し、利用の便宜を図った。

5 LSI開発の成果

 本LSI開発により、MUSEデコーダは従来装置に較べ、大きさ約1/20、重さ約1/30、消費電力約1/30と大幅に減少した。図3および図4にLSI化MUSEデコーダの外観を示した。その後、先ず、小型の家庭用MUSEデコーダが市販され、次いで、1990年末には松下電器他国内家電メーカー各社からデコーダ内蔵型のハイビジョン受信機が市販された。  その後、半導体技術の高集積化、高速化の技術が進み、第2世代、第3世代LSIが開発され、1995年末には受信機の累積出荷台数が10万台を超えるに至った。

 本研究の成果に対して、映像情報メディア学会は、1990年、NHK-MUSE受信機用LSI開発グループに技術振興賞開発賞を贈った。

文献

[1] 国分秀樹,明智和幸,小林和正, 阿部正英,川島正,小林希一,二宮佑一、ハイビジョンMUSEデコーダ用LSIの開発、1989年、テレビジョン学会全国大会,12-13
[2] M.Abe,H.Kokubun,K.Akechi,K.Kobayashi,Y.Izumi,S.Gohshi,Y.Ninomiya,T,Takegahara,T.Ohmura,K.Yamaguchi、LSI FAMILY FOR MUSE DECORDER、1990年、IEEE Transactions on Consumer Electronics,Vol.36,No.3,AUGUST 1990
[3] MUSEデコーダー用高集積LSIの開発、国分秀樹,明智和幸,小林和正,阿部正英,小林希一、1991年、NHK技研R&D,No.15,1991 9月
[4] 泉吉ほか,、MUSE受像機のLSI化、1989年、テレビジョン学会全国大会,12-14
[5] 明智和幸ほか、MUSEデコーダ用2次元フィルタLSIの開発、1991年、テレビジョン学会年次大会,14-2
[6] 小林ほか、MUSE受像機のLSI化(Ⅱ)、1991年、テレビジョン学会年次大会,14-5
[7] 中村ほか、MUSEデコーダ用クロマ処理LSIの開発、1991年、電子通信学会春季全国大会,C-613
[8] 藤村ほか、MUSEデコーダ用出力処理LSIの開発、1991年、テレビジョン学会年次大会,14-6
[9] 久保ほか、MUSEデコーダ用RGB発生LSIの開発、1991年、電子通信学会春季全国大会,C-614
[10] 堀ほか、MUSE音声信号処理LSIの開発、1991年、テレビジョン学会年次大会,14-7

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分野のカテゴリ

放送
(家庭用映像機器)

関連する出来事

1986年11月
NHK技研MUSE LSI開発プロジェクト発足
1987年1月
NHK、NEC、東芝、松下電器3社WG発足
1989年5月29日
公表(新聞)、NHK技研公開等

世の中の出来事

1990
大学センター試験が始まる。
1990
東西ドイツが統一される。

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博物館等収蔵品

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キーワード

ハイビジョンMUSEデコーダ、MUSEデコーダ用LSI、画像処理用高速論理LSI、高速・大容量画像メモリ、高速・広帯域10ビットA/D、D/Aコンバータ、ハイビジョン、VLSI設計技術、映像符号化、ディジタル信号処理
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