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高速無線LANにおけるMultiple-Input Multiple-Output MIMO)技術の研究と実用化

  • 青木 亜秀青木 亜秀
  • 足立 朋子足立 朋子
  • 行方 稔行方 稔
高速無線LAN におけるMIMO 技術

図1 高速無線LAN におけるMIMO 技術

高速無線LAN におけるMIMO 技術による効果

図2 高速無線LAN におけるMIMO 技術による効果

 近年,無線LANはスマートフォンやタブレット端末などに標準搭載されており,コンシューマ向けの通信方式として確固たる地位を確立している.1990年代にIEEEで無線LAN規格802.11と,その拡張規格である802.11bが策定され,無線LAN機器が普及を始めたが,更なる高速化に向けてMIMO技術の導入が有望視されていた.MIMO技術は複数アンテナで無線フレームを並列伝送することでその並列度に比例した高速化が可能であるが,それを無線LANに適用し高速な伝送レートを得るには幾つかの本質的な課題があった.受賞者らはそれらの課題を世界に先駆けて解決し規格に盛り込むことによって,MIMO技術による高速無線LANの普及に貢献した.
 通常,MIMO技術においては,送信機と受信機の発振器のずれを補正するためのパイロット信号を送信する.1アンテナのみを用いる場合とは異なり,複数のアンテナから送信される電波が相関によって相殺されるエリアが生じるため,想定される通信範囲の全領域をカバーできない現象が起こる.受賞者らは周波数ごとにパイロット信号のアンテナ間の位相を系統的にずらすことで,この問題を解決した(図1(a))(1)~(3).従来方式でのエリアカバー率は16%だったのに対して,提案方式の採用によりエリアカバー率はほぼ100%を達成し(4),無線LANにおいてMIMO技術を採用し,高い伝送レートを実現できるようになった.
 一方で,従来の物理パケットのフレーム構成をそのままMIMO技術に適用した場合,複数のフレームの送受信において,送信物理ヘッダ,フレーム間隔,応答フレームの時間によるオーバーヘッドで伝送レートが向上しても体感される実効速度は頭打ちになってしまう(図2 青線).そこで受賞者らは,複数の送信フレームを連接して一つの物理パケットに集約することで高効率化を図るとともに,これに対応する応答フレームも一つに集約することで,受信ステータス管理の負荷を大幅に軽減する方式を提案した.この方式ではフレーム集約と逆の手続きであるフラグメント処理を省略しているので,負荷軽減とともに受信ステータスフィールド長を短縮し,効率化することができる(図1(b))(3),(5),(6).これにより,100Mbit/s超の実効速度が実現できるようになった(図2 赤線)(7),(8)
 本技術は,無線LANの世界標準規格であるIEEE802.11n(9)及びIEEE802.11acに採用されるとともに,現在標準化作業中である次世代無線LAN規格,IEEE802.11axにも採用されている.更に,これらの規格には,受賞者らが考案した既存の端末との共存を可能にするプリアンブル信号や,高効率を確保するための加入端末制限方式も盛り込まれた.
 受賞者らは,IEEE802.11n,IEEE802.11acに対応した,無線LANベースバンドLSI,アナログ無線機能を備えた無線LANワンチップLSI及び無線LAN搭載SDメモリカードの製品化にも貢献した.また,IEEE802.11ax規格ドラフト対応のLSIの開発にも参画し,2018年2月には共著者としてISSCC2018にて世界初のIEEE802.11ax対応LSIを発表した(10)
 市場調査によれば当該無線LAN規格は,2016年には27.2億台の製品に搭載されており,2021年には33.6億台となる見込みである.本技術は,オフィスや家庭における無線LAN利用の促進に,更には公衆無線LANの普及に大きく貢献しており,今後は,本技術のIoT分野などへの展開が大いに期待される.なお,関連技術に関して受賞者らは,関東地方発明表彰神奈川県発明協会会長賞(2012年),電気学会電気学術振興賞進歩賞(2014年),科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞(2015年),関東地方発明表彰発明奨励賞(2015年),市村産業賞貢献賞(2016年)を授与されるなど高く評価されており,その貢献は電子情報通信学会業績賞にふさわしいものである.


 本研究の成果に対して、電子情報通信学会は、2018年、青木 亜秀 (東芝)、足立 朋子 (東芝)、行方 稔 (東芝メモリ)に電子情報通信学会 業績賞 を贈った。

文献

(1) T. Aoki, Y. Egashira, and D. Takeda, “Preamble structure for MIMOOFDM WLAN systems based on IEEE 802.11a,” PIMRC2006, MIMO Recievers II-2, pp. 1-6, Sept. 2006.
(2) T. Aoki, Y. Egashira, and D. Takeda, “Preamble structure for IEEE 802.11n wireless LAN system,” IEICE Trans. Commun., vol. E92-B, no. 10, pp. 3219-3227, Oct. 2009.
(3) 青木亜秀,足立朋子,“MIMO pilot signals and selective repeat scheme for high throughput wireless LANs,” 第5 回世界工学会議 (WECC2015), no. PS 5-5-6, Dec. 2015.
(4) T. Aoki and M. Sandell, “Analysis of pilots for residual frequency offset estimation in MIMO OFDM systems,” IEEE Trans. Wirel. Commun., vol. 8, no. 3, pp. 1128-1132, March 2009.
(5) T. Nakajima, Y. Utsunomiya, Y. Nishibayashi, T. Tandai, T. Adachi, and M. Takagi, “Compressed block ack, an efficient selective repeat mechanism for IEEE802.11n,” PIMRC2005, no. 3, pp. 1479-1483, Sept. 2005.
(6) T. Nakajima, T. Nabetani, Y. Utsunomiya, T. Adachi, and M. Takagi, “A simple and efficient selective repeat scheme for high throughput WLAN, IEEE802.11n,” VTC 2007-Spring, pp. 1302-1306, 2007.
(7) 足立朋子,“IEEE802.11 ワイヤレスLAN の最新技術動向(チュートリアルセッション),”2009 信学総大,no. BT-1-2, March 2009.
(8) 足立朋子,“標準化現場ノート第15 回IEEEE802.11n,”映情学誌,vol. 65, no. 7, pp. 950-953, 2011.
(9) IEEE Std 802.11nTM-2009, “Enhancements for higher throughput (Amendment 5),” 2009.
(10) S. Kawai, H. Aoyama, R. Ito, Y. Shimizu, M. Ashida, A. Maki, T. Takeuchi, H. Kobayashi, G. Urakawa, H. Hoshino, S. Saigusa, K. Koyama, M. Morita, R. Nihei, D. Goto, M. Nagata, K. Nakata, K. Ikeuchi, K. Yoshioka, R. Tachibana, M. Arai, C.-K. Teh, A. Suzuki, H. Yoshida, Y. Hagiwara, T. Kato, I. Seto, T. Horiguchi, K. Ban, K. Takahashi, H. Kajihara, T. Yamagishi, Y. Fujimura, K. Horiuchi, K. Nonin, K. Kurose, H. Yamada, K. Taniguchi, M. Sekiya, T. Tomizawa, D. Taki, M. Ikuta, T. Suzuki, Y. Ando, D. Yashima, T. Kaihotsu, H. Mori, K. Nakanishi, T. Kumagaya, Y. Unekawa, T. Aoki, K. Onizuka, and T. Mitomo, “An 802.11ax 4×4 spectrum-efficient WLAN AP transceiver SoC supporting 1024QAM with frequency-dependent IQ calibration and integrated interference analyzer,” ISSCC 2018, no. 28-1, pp. 442-444, Feb. 2018.

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