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100Gディジタルコヒーレント光伝送方式の実用化

  • 富澤 将人富澤 将人
  • 尾中 寛尾中 寛
  • 菊池 和朗菊池 和朗
ディジタルコヒーレント方式の概要[sup](7)[/sup]

図1 ディジタルコヒーレント方式の概要(7)

 インターネットにおいて世界中の誰もがどこにいても好きなコンテンツをストレスなく楽しめる今の状況は,世界規模の大容量光ネットワークにより支えられている.通信事業者は日々増大するインターネットトラヒックに先んじて光ネットワークの大容量化を経済的に推し進めていくことが必要な状況だ.
 2004年に菊池 和朗(東大)が世界で初めて提案・検証したディジタルコヒーレント光伝送方式は,コヒーレント光通信とディジタル信号処理を融合した技術であり,受信した光信号の電界複素振幅を高速サンプリングしてディジタルデータに変換し,ディジタル信号処理により信号ひずみを補償して元の信号を復元する.光の位相情報と振幅情報をフルに活用して情報を伝達できるコヒーレント光通信方式は,1980年代に盛んに研究されたが,1990年代以降の光ファイバ増幅器を用いたIDMM方式の大発展により中断されていた.ディジタルコヒーレント光伝送方式では,信号光の位相雑音や偏波変動をディジタル領域で処理するので,従来のコヒーレント光通信に比べてシステムの安定度が劇的に改善される.この方式では電気領域での波長分散補償が可能であり,従来は長距離伝送システムでは必須であった波長分散補償デバイス(ファイバ等)の光中継器への設置を不用にできる.多値変復調,更には偏波分離も可能であるので,偏波多重方式併用による1波長での伝送容量倍増も実現できる.これらの特長により,経済的で大容量のシステムの実現が期待できる一方で,その実現には,光信号のボーレートを上回る高速のA-D変換器と大規模なディジタル信号処理回路が必要という課題があった.
 富澤 将人(NTT)、尾中 寛(富士通)らは,複数組織(NTT,NEC,富士通,三菱電機)が優位技術を持ち寄って参画するオープンイノベーションの体制を構築し,菊池 和朗(東大)らの助言の下,1波長当り100Gbit/sの長距離伝送を可能とするディジタル信号処理LSIの技術開発を2009年からの3年間という短期間で成功させた.開発したディジタル信号処理LSIは127Gbit/sの偏波多重4値位相変調(QPSK : Quadrature Phase Shift Keying)の伝送方式に対応し,2,000km以上の単一モードファイバ伝送路の波長分散を高速に推定し補償する技術,敷設された光ファイバ伝送路中で生じ得る高速な偏波変動に追従しつつ垂直偏波と水平偏波の信号成分を分離する高速偏波制御技術,偏波モード分散補償技術,高効率な軟判定誤り訂正技術など,多くの機能を集積・統合している.このLSIを採用した波長多重システムはファイバ伝送容量を従来の5倍に拡大できる.このような先進的な機能が実用システムでは非常に有効であると評価された結果,このLSIは日本の企業はもちろん世界の主要ベンダの波長多重システムに採用されている.受賞者らのこれらの貢献は,大容量光伝送システムの潮流がディジタルコヒーレント方式に移行することを決定付けるものとなった.
 以上のように,受賞者らはディジタルコヒーレント光伝送方式を世界で初めて提案・実現し,組織の枠を超えたオールジャパン体制を構築し,我が国の知的財産の結集と具現化を実施,世界最高性能となる100Gbit/s級光送受信技術を世界に先んじて開発・実用化した.これらの成果は,桜井健二郎賞,情報通信技術委員会総務大臣表彰,内閣府内閣総理大臣賞,NEC C&C財団 C&C賞受賞など高く評価されており,受賞者らの功績は極めて顕著で,電子情報通信学会業績賞にふさわしいものである.


 本研究の成果に対して、電子情報通信学会は、2014年、富澤 将人(NTT)、尾中 寛(富士通)、菊池 和朗(東大)に電子情報通信学会 業績賞 を贈った。

文献

(1) D.-S.Ly-Gagnon,K.Katoh,and K.Kikuchi,“Coherent demodulation of differential 8-phase-shift keying with optical phase diversity and digital signal processing,”IEEE LEOS Annual Meeting,no.WR2,Rio Grande,Puerto Rico,Nov.2004.
(2) S.Tsukamoto,D.L.-Gagnon,K.Katoh,and K.Kikuchi,“Coherent demodulation of 40-Gbit/s polarization-multiplexed QPSK signals with 16-GHz spacing after 200-km transmission,”OFC/NFOEC2005,no.PDP29,2005.
(3) 尾中寛,池内公,”光ネットワークにおける省電力・高速CMOS LSI技術の動向,”信学誌,vol.93,no.8,pp.688-692,Aug.2010.
(4) E.Yamazaki, S.Yamanaka, Y.Kisaka, T.Nakagawa, K.Murata, E.Yoshida, T.Sakano, M.Tomizawa, Y.Miyamoto, S.Matsuoka, J.Matsui, A.Shibayama, J.Abe, Y.Nakamura, H.Noguchi, K.Fukuchi, H.Onaka, K.Fukumitsu, K.Komaki, O.Takeuchi, Y.Sakamoto, H.Nakashima, T.Mizuochi, K.Kubo, Y.Miyata,H.Nishimoto, S.Hirano,and K.Onohara, “Fast optical channel recovery in field demonstration of 100-Gbit/s Ethernet over OTN using real-time DSP,”Opt.Express,vol.19,pp.13179-13184,2011.
(5) M.Tomizawa,“DSP aspects for deployment of 100G-DWDM systems in carrier networks,”OFC/NFOEC,2012.
(6) 尾中寛,”Beyond 100Gに向けたディジタルコヒーレント信号処理LSIの展開,”信学光通信システム研究会(OCS)第二種研究会,2012.
(7) 鈴木扇太,宮本裕,富澤将人,坂野寿和,村田浩一,美野真司,柴山充文,渋谷真,福知清,尾中寛,星田剛司,小牧浩輔,水落隆司,久保和夫,宮田好邦,神尾享秀,”光通信ネットワークの大容量化に向けたディジタルコヒーレント信号処理技術の研究開発,”信学誌,vol.95,no.12,pp.1100-1116,Dec.2012.

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ディジタルコヒーレント光伝送方式、電界複素振幅、コヒーレント光通信方式
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