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移動通信における信号処理アンテナの先駆的研究

  • 小川 恭孝小川 恭孝
信号処理アンテナによるマルチパス波抑圧の概念図

図1 信号処理アンテナによるマルチパス波抑圧の概念図

空間分割多元接続(SDMA)の概念図

図2 空間分割多元接続(SDMA)の概念図

 今日の携帯電話の普及,高速伝送の実現には目を見張るものがある.しかも,今後更に大量のトラヒックを収容することが必要になると予想されている.受賞者の業績は,移動通信に用いられる,信号処理機能を有するアンテナ技術の発展に寄与したものである.
 アダプティブアンテナ,あるいは,スマートアンテナとも呼ばれる信号処理アンテナは,複数のアンテナ素子の振幅と位相を制御することにより,指向性などの送受信特性を環境に応じて最適化するものである.これは,1960年代に妨害電波を抑圧する軍用技術として研究が開始された.受賞者は1980年代の初頭,世界に先駆けて商用のディジタル移動通信への適用を提案し(1),その挙動を明らかにした(2)~(4).当時,移動通信にディジタル変調方式を導入することが検討されていたが,シンボル長に比較して無視できないほど長い遅延時間差を有するマルチパス波による波形ひずみが重大な問題となっていた.シンボル長が短い高速伝送系ほど,その影響が甚大となる.受賞者は図1に示したように信号処理アンテナにより,指向性を適応的に制御し,マルチパス波到来方向の利得を下げることによって,それを抑圧することを提案した.この方式は,遅延時間差が長いほど,マルチパス波の抑圧効果が大きい特長を有している.一方,ヨーロッパにおいて同趣旨の研究を含むTSUNAMI(Technology in Smart antennas for the Universal Advanced Mobile Infrastructure)と呼ばれるプロジェクトが1994年から1995年にかけて実施されたが,受賞者の研究はそれに先立つこと約10年の先駆性のあるものである.
 また,図2に示したようにマルチビームを有する信号処理アンテナにより,同じ周波数帯域に同時に複数のユーザを収容することによって,チャネルの利用効率を高めることが可能である.これは空間分割多元接続,すなわち,SDMA(Space Division Multiple Access)と呼ばれるものである.ユーザ端末から送られる信号を受信する上り回線では,基地局の信号処理アンテナは指向性の制御により,複数ユーザの信号を分離して受信する.基地局からの信号をユーザに送信する下り回線においては,ユーザ端末側での干渉除去が必ずしも容易ではないことから,各ユーザに干渉を与えないように送信時の指向性を制御する必要がある.受賞者は下り回線の制御にチャネル予測を取り入れた手法を提案し,時変動環境におけるSDMAの特性を改善することを提案した(5).更に,1999年12月から2001年3月まで,電波産業会においてSDMAに関する調査検討会の主査として,この技術が実環境で動作することを実証し,世界で初となる,PHS(Personal Handy-phone System)におけるSDMAの実用化に貢献した(6)
 送信側と受信側の双方(基地局とユーザ端末に相当)に複数のアンテナ素子を設置したものをMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)システムと呼んでいる.これは,信号処理アンテナを高度化したものと位置付けられ,更なる高速伝送を実現することができる.図2に示したSDMAシステムにおいてユーザ端末に複数のアンテナ素子を配置したものは,マルチユーザMIMOシステムと呼ばれており,第4世代の移動通信LTE-Advancedにおいて標準化されるに至っている.受賞者のSDMAの研究は,マルチユーザMIMOシステムの基盤形成に貢献したと言える.受賞者は更に,チャネル予測を用いることにより,時変動環境におけるマルチユーザMIMOシステムの特性を改善する研究を鋭意行っている(7)~(10)
 受賞者のこれらの成果は,国内外で高く評価され,電子情報通信学会論文賞(2007年),テレコムシステム技術賞(2008年)などを受賞するとともに,電子情報通信学会フェロー(2008年),IEEE Fellow(2011年)に昇任するに至っている.このように受賞者の功績は極めて顕著であり,電子情報通信学会業績賞にふさわしいものである.

 本研究の成果に対して、電子情報通信学会は、2014年、小川 恭孝(北海道大)に電子情報通信学会 業績賞 を贈った。

文献

(1) Y.Ogawa,M.Ohmiya,and K.Itoh,“Behaviors of an LMS adaptive array for multipath fading reduction,”Trans.IECE of Japan,vol.E67,no.7,pp.395-396,July 1984.
(2) Y.Ogawa,M.Ohmiya,and K.Itoh,“An LMS adaptive array for multipath fading reduction,”IEEE Trans.Aerosp.Electron.Syst.,vol.AES-23,no.1,pp.17-23,Jan.1987.
(3) Y.Ogawa,M.Ohmiya,and K.Itoh,“Fading equalization using an adaptive antenna for high-speed digital mobile communications,”Proc.ISAP'89,vol.4,4A2-3,pp.857-860,Aug.1989.
(4) Y.Ogawa,Y.Tanabe,T.Nishimura,and T.Ohgane,“Basestation adaptive antennas for a high-speed FDD/TDMA system,”2001 IEEE International Conference on Communications (ICC2001),Conference Record,vol.8,pp.2558-2562,June 2001.
(5) Y.Kishiyama,T.Nishimura,T.Ohgane,Y.Ogawa,and Y.Doi,“Weight estimation for downlink null steering in a TDD/SDMA system,”Proc.IEEE VTC2000-Spring,vol.1,pp.346-350,May 2000.
(6) Y.Doi,J.Kitakado,T.Ito,T.Miyata,S.Nakao,T.Ohgane,and Y.Ogawa,“Development and evaluation of the SDMA test bed for PHS in the field,”IEICE Trans.Commun.,vol.E86-B,no.12,pp.3433-3440,Dec.2003.
(7) H.P.Bui,Y.Ogawa,T.Nishimura,and T.Ohgane,“Performance evaluation of multiuser MIMO E-SDM systems in time-varying fading environments,”IEICE Trans.Commun.,vol.E92-B,no.7,pp.2374-2388,July 2009.
(8) H.P.Bui,Y.Ogawa,T.Nishimura,and T.Ohgane,“Performance evaluation of a multi-user MIMO system with prediction of timevarying indoor channels,”IEEE Trans.Antennas Propag.,vol.61,no.1,pp.371-379,Jan.2013.
(9) K.Yamaguchi,H.P.Bui,Y.Ogawa,T.Nishimura,and T.Ohgane,“Considerations on a multi-user MIMO system using channel prediction based on an AR model,”Proc.2013 IEEE AP-S International Symposium,pp.550-551,July 2013.
(10) Y.Ogawa,K.Yamaguchi,H.P.Bui,T.Nishimura,and T.Ohgane,“Behavior of a multi-user MIMO system in time-varying environments,”IEICE Trans.Commun.,vol.E96-B,no.10,pp.2364-2371,Oct.2013.

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