1. HOME
  2. 電気・情報関連(専門)
  3. 研究情報(登録番号326)

分布定数回路合成理論の体系化

  • 写真なし斎藤 伸自
ハイパードミナントな特性アドミタンス行列を持つ多線条線路の断面構造

図1 ハイパードミナントな特性アドミタンス行列を持つ多線条線路の断面構造

多線条線路素子を用いた回路の単相線路素子による等価表示の例

図2 多線条線路素子を用いた回路の単相線路素子による等価表示の例

150MHz帯狭帯域通過形フィルタ

図3 150MHz帯狭帯域通過形フィルタ

結合2線条(3導体)線路素子の抽出

図4 結合2線条(3導体)線路素子の抽出

多線条線路素子の縦続分離によって設計されたフィルタの実験例

図5 多線条線路素子の縦続分離によって設計されたフィルタの実験例

偶関数部零点の縦続合成

図6 偶関数部零点の縦続合成

 分布定数回路の理論的研究では、日本は早くから世界で先導的役割を果たしてきた。初期のころは単位素子(特性インピーダンスW、長さLの同軸線路素子)の並列接続と縦続接続だけの組み合せで回路を構成し、回路関数の特徴づけや実現可能性について議論されていた。

 このほど日本人研究者によって一連の新しい論文が発表され、世界の注目を集めるに至った。この論文は1972年の電子通信学会論文誌に掲載された「分布定数素子を用いた基底帯域等化器」(西関隆夫、斎藤伸自共著)などである。直列接続やトランスを用いないという現実的立場を崩さず、「単位素子のほかに、単位多線条素子(特性インピーダンス行列W、長さLの分布結合線路素子)を積極的に利用すべきだ」と提唱しており、相反無損失等長分布定数回路の合成論における基礎的諸問題を見事に解決するものであった。

 まず、任意の対称な実数行列inv[W](invは逆行列を示す)が理想的な無損失多線条線路の特性アドミッタンス行列であるための必要十分条件は、非特異ハイパードミナント行列であることを示した。非特異ハイパードミナント行列とは、「対角要素が正、非対角要素が負で、各行において全要素の和が正になる」という非特異な行列(図1)である。実用的な分布定数素子として遮蔽形の線路素子が用いられ、各導体の電圧は外被導体を基準として測られるという前提に立っている。

 このような非特異ハイパードミナントの特性アドミッタンス行列は、線形変換によって非特異な正定数対角行列に変換できることに着目して、対角要素の値を特性アドミッタンスとするn個の独立な単相線路上の伝送を、線形変換ベクトルを巻線比とする理想トランス群によって重ね合わせれば、n線条結合線路((n+1)導体線路)上の伝送が得られることを明らかにした。この事実から多線条線路を含む回路の等価回路を単相線路と理想トランス群の組み合わせで与え、理解しやすくした。その一例が図2のように、単位2線条(3導体)結合素子あるいは単位3線条(4導体)結合素子と2~3個の単位素子とで構成される簡単な2端子対網の等価回路である。

 結合線路素子の導入の特徴の一つは、複数の線条間の結合を利用できることにある。集中定数回路では相互インダクタンスや結合キャパシタンスに当たる機能であり、単位素子だけでは実現できない。

 分布定数回路が用いられるような高い周波数帯では、特定の周波数を通過させたり、逆に阻止したりといった狭帯域特性がしばしば要求される。製作可能な同軸線路の特性インピーダンスには制約があって狭帯域の要求を満たすことは難しいが、結合線路素子の入力側の線条と出力側の線条とを疎に結合させれば、狭帯域特性を容易に実現できる。

 そこで新聞社の自動車無線(150MHz帯)の混変調防止用アンテナ回路として、割り当てられた周波数だけを通過させる狭帯域濾波器を試作した(図3)。4線条素子1区間と単位素子1区間を組み合わせて、共振器に入力端子対および出力端子対を容量結合させる構造で、結合を疎にして狭帯域特性が得られている。

 次いで、単位多線条素子の縦続分離法を提案し、その正当性をリチャーズの行列定理によって証明した。等長分布定数回路における周波数変数p=jtankfL(kは定数、fは周波数、Lは線路長)に関する正実行列 Y(p)から、Y(1)を特性アドミッタンスとする単位多線条素子を縦続に分離すると、残りのアドミッタンス行列Y*(p)もまた正実行列になることを示した。これが重要な基本的合成法の一つとなっている(図4)。

 ここでのY*(p)は

  Y*(p)=inv[E-Y(p)inv[Y(1)]p]{Y(p)-Y(1)p}

で与えられる。ただしEは単位行列である。この方法を応用した回路合成の例が挙げられており、図5に多線条線路素子の縦続分離によって設計されたフィルタの実験例を示した。なお、抽出する単位多線条素子の特性アドミッタンス行列Y(1)がハイパードミナントでなければならないという制約がある(ただし理想トランスの使用を認めれば、この制約は解消する)。

 また、p に関する正実関数Y(p)の縦続合成に単位多線条素子を応用したのも大きな成果である。複素周波数p平面上に現れる偶関数部 Ev.[Y]=Y(p)+Y(-p)の零点の一つ一つを、負荷抵抗の前に相互に縦続接続された区間の一つ一つによって実現させる方法を縦続合成法という。単位素子のみの組み合わせでほとんどの偶関数部零点を実現できることは証明されていたが、p平面の実軸上で-1と+1の間の零点についても、ある4線条素子(外被を除く3線条を折り返した)1区間と幾つかの単位素子を縦続に接続すれば実現可能であることが示された(図6)。これによって分布定数の正実有理関数の縦続合成論はほぼ完結したのであった。

 以上のように分布定数回路合成理論の体系化を中心とする一連の基礎的研究は、この分野に数多くの新局面を開いた。

 本研究の成果に対して、電子情報通信学会は、1990年、斎藤 伸自(東北大学工学部通信工学科、のちの1993年に科学技術庁長官賞を受賞し、また米国電気電子通信学会(IEEE)からフェローの称号を受けた。)に電子情報通信学会業績賞及び小林記念特別賞を贈った。

文献

[1] 斎藤 伸自、Richars 鍵定理の四端子回路への拡張、1961年、電気通信学会誌、44巻、7号
[2] 斎藤 伸自、結合線路型ろ波器、1961年、電気通信学会誌、44巻、7号
[3] 斎藤 伸自、分布定数アドミタンスの従続合成の考察、1966年、電気通信学会誌、49巻、9号
[4] 斎藤 伸自、結合線路形ろ波器、1961年、工学博士論文(東北大学)
[5] N. Saito、Couple-Line Filters、1970年、Ch.7, in Theory and Design of Microwave Filters and Circuits (ed. A. Matumoto), Academic Press
[6] 永井健三、佐藤利三郎、斎藤伸自、超短波用帯域通過型ろ波器の設計、1953年、電気通信学会誌、36巻、7号
[7] N. Saito, H. Uchida, K. Nagai、Mode Analysis of the Three-Connductor Transmission Line by Transforming the Characteristic Resistance Circuit、1963年、Report of Research Inst. Of Elect. Comm., Tohoku Univ., SCI.REP.RITS, B-(Elect.Comm.), 15, 3
[8] N. Saito, K. Nagai、Sufficient Condition for Adomittance Matrix Realizable in Characteristic Adomittance of Multiline、1965年、Report of Research Inst. Of Elect. Comm., Tohoku Univ., SCI.REP.RITS, B-(Elect.Comm.), 16, 4
[9] N. Saito, K. Nagai、Equivalent Network of a Four-Conductor Line Section、1965年、Report of Reserch Inst. Of Elect. Comm., Tohoku Univ., SCI.REP.RITU, B-(Elect.Comm.), 16, 4
[10] 西関 隆夫、斎藤 伸自、分布定数素子を用いた基底帯域等化器、1972年、電子通信学会論文誌、55-A、11

関連する研究を検索

分野のカテゴリ

電気・電力
(その他(電気・電力))

関連する出来事

データなし

世の中の出来事

1990
大学センター試験が始まる。
1990
東西ドイツが統一される。

Webページ

データなし

博物館等収蔵品

データなし

キーワード

回路とシステム、VLSI 設計技術、マイクロ波、超音波、無線通信システム
Page Top