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新幹線車両用の交流電動機駆動主変換装置の開発と実用化

  • 写真なし石川 栄
  • 写真なし四方 進
  • 写真なし高原 英明
東海道新幹線300系試作電車J0編成

図1 東海道新幹線300系試作電車J0編成

東海道新幹線300系電車の誘導電動機駆動回路

図2 東海道新幹線300系電車の誘導電動機駆動回路

誘導電動機を制御する電力変換装置

図3 誘導電動機を制御する電力変換装置

半導体冷却ユニット(順変換器用)

図4 半導体冷却ユニット(順変換器用)

マイクロプロセッサ制御ユニット

図5 マイクロプロセッサ制御ユニット

誘導電動機

図6 誘導電動機

 最高速度200 km/hを超える高速鉄道を世界に先駆けて実現したのは、1964年に開通した東海道新幹線である。電気車両の駆動制御については、出力増大のために当初からダイオード整流装置などの最新技術が導入されたが、駆動用電動機には質量が大きくメンテナンス作業の多い直流電動機が使われていた。直流電動機は回転数を大きく変える用途に適しており、電鉄などの産業用に広く用いられていたが、電力制御用GTO(ゲートターンオフサイリスタ)によるインバータ技術の成熟に伴い、1980年代半ばからより構造の簡単な交流の誘導電動機駆動に取って代わられることになった。

 しかし単相交流を電源とする新幹線車両の場合、ダイオードやサイリスタによる直流電力への変換で歪みが生じ、これが交流電流を用いる信号・通信系統に影響を与え、また力率低下によって性能が制約されるという問題があった。それに加えて、直流電源車両に広く行き渡っていた電力回生ブレーキの適用が技術的に難しい。そのため更なる高速化を目指す新幹線にとっては、出力の増大と機器の軽量化による効率向上が大きな課題となっていた。

 GTOを用いた世界初のPWM制御電力変換装置による誘導電動機駆動車両の実用化は、1992年3月の300系車両による東海道新幹線東京—新大阪間の「のぞみ」(図1)の運行で始まり、最高速度を220 km/hから270 km/hに向上させ、それまでの所要時間約3時間を2時間半に短縮した。この新しい電力変換装置を用いた駆動方式の特徴と効果のあらましは、以下の通り。
(1) 従来の2/3近くまで車両を軽量化
 回路システムとしては、PWM変換器を用いた電力回生ブレーキの導入により、発電ブレーキエネルギー吸収用の抵抗器が不要になった。電動機は出力230 kW直流電動機から300 kWの交流誘導電動機に増強したが、回転数増加や新素材の導入で質量が約半分になった。個々の電気機器の軽量化も車体や台車など構造物の軽量化につながった。
(2) 信頼性を確保し効率を向上
 交流から直流への順変換器(コンバータ)部分にPWM制御回路を用いて電力回生ブレーキの信頼性を確保した。また力行時の電源力率がほぼ1に制御できるため無効電流がなくなった。これは電源系統の損失の減少につながり、力率低下を補償する設備も不要となった。電力回生ブレーキの電力リサイクル効果も見逃せない。
(3) 電源の高調波電流を低減
 ダイオードやサイリスタ整流器は交流電源電力の力率を下げ、また歪波形による高調波電流が軌道回路や通信線の信号などに影響を与えていた。しかしPWM制御の順変換器の採用により電流波形を正弦波状に制御し、かつ搬送波周波数の選定と編成内複数の変換回路の搬送波に適切な位相差をつけることが可能となった。
(4) 電動機出力および制御性能を向上
 PWMインバータによる誘導電動機駆動の技術は国内でも直流電源車両で1980年代前半に実用化されたが、高速度運転を目指す新幹線でも、回転速度を高めることによる電動機出力の増大、車輪空転に迅速に対処して再粘着させる制御などを実現した。

 図2は、300系新幹線電車の3両分の回路図である。中央の車両(付随車)に変圧器、両端の車両(電動車)にそれぞれ電力変換器と各4台の誘導電動機が設備される。なお、1編成はこれらの単位(ユニット)回路を5倍にし、1両の付随車を連結して16両とする。

 また、図3に電動車1両の電力変換装置の外観、図4に4.5 kV、2.5 kA GTOを内蔵する半導体冷却ユニット、図5にマイクロプロセッサ制御装置、図6に300 kW誘導電動機を示す。

 1992年03月14日の「のぞみ」開業に先立ち、新方式モータドライブ技術を適用した16両編成の新幹線300系試作車両(図1)を製作し、1990年3月から約2年間、走行試験を行った。

 本研究の成果に対して、電気学会は、1992年、こうした実用化をめざして技術開発を進めた石川 栄(JR東海)、四方 進(三菱電機)、高原 英明(東芝)に電気学術振興賞進歩賞を贈った。

文献

[1] 石川 栄,田中 茂,多田隈進,高原英明、PWMコンバータを用いた高性能交流電車システムの検討、1987年、電気学会論文誌D, Vol.107-D, No.3
[2] 石川 栄,豊島正克,大山滝夫,高原英明,田中 茂、交流車両の新主回路システム、1987年、東芝レビュー, Vol.42, No.6
[3] 高原英明,木島研二,大山滝夫、高性能交流車両主回路方式、1988年、東芝レビュー, Vol.43, No.10
[4] H.Hata, K.Aburaya, E.Takahara, M.Iwataki、Development of a PWM Converter and Inverter Device for Shinkansen EMU、1989年、EPE’89, 3rd European Conference on Power Electronics and Applications
[5] A.Ujiie, S.Tanaka, E.Takahara, A.Miyazaki、Development of a Pulse Power Converter with a DSP Instantaneous Current Control、1989年、IECON’89, 15th Annual Conference of IEEE IES
[6] 石川 栄,稲玉 哲、新幹線”スーパーひかり”のACドライブシステム、1990年、電気学会雑誌, Vol.110, No.2
[7] K.Aburaya, H.Hata, T.Maeda, S.Oe, E.Takahara、Magnetic Saturation of a Main Transformer of Shinkansen EMUs and a Voltage-Source PWM Converter with a Current Pattern Control、1990年、IPEC-Tokyo’90
[8] 大山滝夫,森田政次,高原英明、300系新幹線電車の電気機器、1991年、東芝レビュー, Vol.46, No.4
[9] 四方 進、VVVFインバータ装置の技術動向、1991年、三菱電機技報Vol.65 No.6
[10] 石川 栄、高速鉄道車両新たな時代へⅡ.”のぞみ”に結実した誘導電動機駆動システム、1994年、電気学会論文誌D, Vol.114, No.6

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キーワード

新幹線、電力変換装置、PWM制御、誘導電動機、電気鉄道、パワーエレクトロニクス
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