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金属ナノ構造を用いた光反応場の創成とその光エネルギー変換への展開

  • 三澤 弘明三澤 弘明
 三澤弘明氏は,金属ナノ微粒子を用いて光と分子系が高効率に相互作用する革新的な光反応場を創出し,分子の光励起プロセスの増強や,電子移動反応などの化学反応プロセスを加速させる新しい光化学の領域を開拓した。以下に同氏の主な業績を紹介する。

1. 金属ナノ構造を用いた光反応場の作製法,ならびに時間分解光電子顕微鏡による局在プラズモンの直接観測法の開拓 
 三澤氏は,光の電磁場と金属ナノ構造体表面の自由電子が相互作用して生ずる「局在プラズモン共鳴」が,「光電場増強」を発現することに着目し,光と分子系を強く相互作用させる光反応場を創出した。光電場の増強は,金属微粒子のサイズ,形状,配置に強く依存するため,半導体微細加工技術を活用して精緻な金属ナノ構造を2nm 程度の高い空間分解能で作製する方法論を開発し,安定な光電場増強を可能にする光反応場を実現した。本方法論により金ナノ構造間の空隙を精密に制御して数ナノメートルまで減少させると,空隙近傍において局在プラズモンによる光電場増強が顕著に現れ,金の2光子発光強度が著しく増加することを初めて見いだした。 
 さらに,三澤氏は,本光反応場の特性を評価するために局在プラズモンの可視化と,その位相緩和時間を実測する手法を開発した。フェムト秒レーザーと光電子顕微鏡を組み合わせて金ナノ構造の局在プラズモンを励起し,観測される光電子の空間分布から10nm以下の空間分解能で局在プラズモンをイメージングすることに成功した。また,位相制御したパルス幅7fsのポンプ・プローブパルスを光電子顕微鏡に入射し,これら2 つのパルスの時間遅延を制御することにより金ナノ構造に誘起される局在プラズモンの干渉を観測する独自のシステムを開発した。本計測法により10fs以下の極めて短い位相緩和時間の実測が可能となり,プラズモンを用いた光化学の研究の深化に大きく貢献した。元来,光と分子との相互作用は弱く,光子を少数の分子によって吸収させることは困難であったが,三澤氏の高効率に分子を励起する光反応場の実現とその計測手法の開発は,そのような状況を一変させ,新たな光化学研究領域を開拓した。

2. 光電場増強効果を用いた微弱光による2 光子励起反応の発見 
 三澤氏は,光電場増強を示す金ナノ構造が,微弱光による2光子励起反応の光反応場として有効であるとの発想に基づき,光電場増強を発現するナノ空隙を金ナノ構造に合目的に配置した反応場を開発した。この光反応場に紫外光照射によってのみ重合するレジスト材料を充塡し,ハロゲンランプからの微弱な可視・近赤外光を照射することにより2 光子重合反応が誘起できることを世界に先駆け見いだした。さらに,フォトクロミック分子溶液を用いて,固相光反応と同様の2光子励起反応が誘起されることを明らかにした。これらは,従来,レーザーのような高強度な光源を用いて初めて達成できる2光子励起反応が,光電場増強を利用すれば,微弱光源によっても誘起可能であることを初めて示したものである。


3. 光電場増強による化学反応プロセスの加速とその光エネルギー変換システムへの応用 
 三澤氏は,金属/半導体電極界面における電子移動反応と,それに基づく酸化還元反応に着目し,n型酸化チタン半導体単結晶基板上に金ナノ構造を形成させたプラズモン光電極を用いて近赤外光を電気エネルギーに安定に変換できることを初めて示した。さらに,作用極における光化学反応を追跡し,水が酸化的に分解して酸素と過酸化水素が生成することを明らかにした。この三澤氏の研究は,金ナノ構造の局在プラズモンによって化学反応プロセスが加速されることを明確に示した先駆的なものである。 
 さらに,三澤氏は,本光電極により水を分解して水素と酸素を発生させる人工光合成の研究を推進した。半導体基板としてn型チタン酸ストロンチウムを用い,その片面に金ナノ微粒子を配置して酸化反応サイトとし,その反対の面にオーミック接合を介して白金薄板を貼付して還元反応サイトとする人工光合成システムを開発した。この研究によって,水が分解されて水素と酸素が空間的に分離した異なるサイトより化学量論的に発生すること,また可視域のすべての波長の光が利用可能であることを示したことは,光反応場の研究としてだけではなく,人工光合成の研究として高い価値を持つものである。 
 また,三澤氏は,還元助触媒を金属ルテニウム微粒子にすると,可視域のすべての波長の光を利用して空中窒素をアンモニアへと変換できることを明らかにした。さらに,アンモニア生成の選択率を向上させる還元助触媒を探索し,ジルコニウムを用いると,ほぼ100%の選択率でアンモニアが得られることを明らかにした。これらの研究は,従来の光触媒を用いた窒素固定とは全く異なる新しい手法であり,太陽光,水,窒素ガスを用いたアンモニアの生成に先鞭をつけるものである。三澤氏のこれらの研究は,プラズモン共鳴に基づく光反応場を物理プロセスである分子系の励起増強だけでなく,化学反応プロセスの加速を可能にする「反応場」へと発展させたものであり,プラズモン共鳴を用いる光化学研究の新たな扉を開いた。

 以上のように,三澤弘明氏は光電場増強を可能にする金属ナノ構造の作製法とその特性を評価する計測法を独自に開発し,分子系の励起プロセスの増強や,化学反応プロセスを加速する革新的光反応場の創成に関する独創的な研究を展開し,顕著な業績を挙げた。化学における新分野開拓に同氏が果たした先導的役割は極めて大きく,国際的にも高く評価されており,光化学,物理化学,資源・エネルギー化学をはじめとする広範な研究分野に大きなインパクトを与えるものである。よって,同氏の業績は日本化学会賞に値するものと認められた。


 本研究の成果に対して、日本化学会は、2015年、三澤 弘明(北海道大学)に日本化学会賞を贈った。

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キーワード

金属ナノ構造、光エネルギー変換、光反応場の創成、局在プラズモンの直接観測法、2光子励起反応、2光子重合反応、人工光合成システム、プラズモン共鳴、光化学研究、物理化学、資源・エネルギー化学
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