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新しい分子活性化様式による合成反応開発と合成ラセン分子および分子集合体の動的機能の研究

  • 山口 雅彦山口 雅彦
 山口雅彦氏は,新しい分子活性化様式による有機合成反応の開発,ラセン小分子を基盤としたオリゴマー分子,分子会合体,分子集合体のボトムアップ合成と動的機能の開発で優れた成果をあげた。以下に研究業績を紹介する。

1.新しい分子活性化様式による合成反応開発 
 有機イオウ・リン化合物は医薬品などの機能性物質として重要であり,効率的合成法の開発は有機合成化学の課題である。これらの化合物の合成に遷移金属触媒反応は不向きとされていたが,新しい遷移金属触媒活性化法を開発することにより解決法を見いだした。そして,ロジウム・パラジウム触媒の反応性比較論,基質・反応性相関,平衡移動制御などの化学的な新概念を提示することにより,遷移金属化学- ヘテロ元素化学の融合的研究を発展させた。 
 また,プロリン塩による不飽和ケトンやアルデヒドの活性化を利用して,マロン酸エステルの不斉触媒的マイケル付加に初めて成功したことも特筆すべき点である。これは2000 年代以降に精力的に研究が行われている有機触媒による不斉合成を1990年代に行った先駆的な研究である。さらに,現在広く利用されているリチウムアセチリド・三フッ化ホウ素反応剤など有機金属化合物にルイス酸を低温で添加して親電子剤を活性化する方法も開発した。 
 このように山口氏は新槻分子活性化様式に基づいて有用な合成反応を数多く開発した。

2.ラセン小分子,オリゴマー分子,分子会合体および分子集合体のボトムアップ合成と動的機能の研究 
 ラセンには右ラセンと左ラセンが存在し,ラセンは自然界に普遍的に存在する不斉構造である。生物について見ると,DNA二重ラセンの分子レベル,微小管の分子集合体レベルからアサガオの蔓やランの花のような身の回り物質レベルにいたるまで広く見られ,重要な機能発現に関わっている。しかし,ラセン物質を精密かつ自在に作り出して系統的に調べる方法がなかったために,化学的な研究は進んでいなかった。山口氏は高度な合成力を駆使して,ラセン芳香族化合物の大量供給法を世界で初めて開発するとともに,ラセン小分子,オリゴマー分子,分子会合体,および分子集合体にボトムアップする方法で多様なラセン物質を精密合成した。 
 合成した4環性ヘリセンを用いて様々なラセン小分子の性質と機能を系統的に調べ,二重鎖DNA との相互作用におけるラセン不斉認識,小分子会合における右右・左左則,ラセン不斉配位子の開発,ヘリセン担持ナノ粒子を用いた光学分割,ダイオードスイッチ機能電子素子の開発など様々なラセン分子機能を開発した。 
 また,ヘリセンをスペーサーで連結したラセンオリゴマー分子について単量体から10量体程度まで100種以上の化合物群を合成し,一定分子サイズを境にして性質が激変する性質不連続性が存在することを示した。アセチレン環状3量体が有機溶媒中で強く選択的に二分子会合すること,鎖状オリゴマーがホモおよびヘテロ二重ラセンを形成することを示し,熱に鋭敏に応答して解離会合する動的機能を開発した。これらの研究は近年興味が持たれている合成二重ラセンオリゴマーとして先駆的なものであり,しかも可逆的な動的機能を示す特徴がある。アセチレンをアミド,スルホンアミド,アミノメチレンなどで置換した鎖状オリゴマーも二重ラセン形成することを見いだし,二重ラセン形成分子開発の一般的方法論を開発した。さらに,性質の異なる二重ラセン形成分子を連結してマルチドメイン化合物を合成し,各ドメインが独立して機能する合成分子システムを構築した。これによって,生体内タンパク質で見られるようなααββ四量体会合体の合成に成功した。 
 二重ラセン会合体の非平衡熱力学系における分子スイッチ機能の研究も特筆すべきである。分子レベルでの熱的ヒステレシス発現の研究を端緒として,加熱・冷却するのみで準安定状態ランダムコイルを与えることや準安定状態から平衡状態に到達する過程で自己触媒反応が関わることを示した。この二重ラセン分子会合系を用いて,温度しきい値機能,温度上昇・下降変化感知,濃度上昇感知,数1,2計数,平衡交差などの非平衡熱力学系分子スイッチ機能を開発した。 
 さらに,分子および分子会合体から分子集合体とバルクレベルのラセン物質を精密合成して動的機能の研究を行った。固体表面,ナノ粒子表面,ゲル中,ベシクル中,液晶中などにおける可逆的な二重ラセン形成を達成し,分子レベルの機能をバルクレベルに合理的にボトムアップする方法論を開発した。これらの研究は,バルクレベルの動的機能がオリゴマー分子構造自体にプログラムされていることを示唆するものである。 
 このようにラセン物質に特有の動的機能を見いだすとともに,それらを支配する経験則と原理を提示し,中心不斉分子と異なるラセン不斉分子の世界が存在することを示し,ラセン物質化学を創始した。 

 以上のように山口氏は有機合成化学を基礎として,小分子から分子集合体に及ぶ広範な有機物質に関する合成,反応,機能などの動的現象の開発において先端的な研究を行うとともに,背景にある経験則と原理を解明して,化学と関連科学分野の発展に大きく貢献した。よって,同氏の業績は日本化学会賞に値するものと認められた。

 本研究の成果に対して、日本化学会は、2015年、山口 雅彦(東北大学)に日本化学会賞を贈った。

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