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高配位アニオン性活性種の創製と有機合成への応用

  • 神戸 宣明神戸 宣明
 神戸宣明氏は,高周期ヘテロ元素および遷移金属の特異な反応性を解明し,それに基づいたユニークかつ有用な合成反応を多数開発することにより,有機合成化学の発展に大きく貢献した。以下に同氏の主な業績を紹介する。

1.高配位ヘテロ原子化合物を鍵活性種とする合成反応
 典型元素はオクテット則を満たす電子配置をとり,様々な構造の有機分子を構成する。その中でヘテロ原子は孤立電子対を供与することにより,一般にルイス塩基としての性質を示す。神戸氏は,高周期ヘテロ原子の軌道エネルギーが高く,σ 軌道に電子を受け入れやすいことに着目し,有機テルル化合物と種々の有機典型金属化合物との反応を検討した。その結果,有機テルル化合物がルイス酸として炭素アニオンを受け入れ,3 中心4 電子結合を有する高配位アニオン性テルル化合物が温和な条件下で生成することを明らかにし,これを活性中間体として利用することにより,種々の有機アルカリ金属,アルカリ土類金属類の新しい生成法を開発した。特に,テルル-リチウム交換反応が低温下でも速やかに進行することを利用し,不安定な極性反転活性種であるカルボニルリチウムの生成など,汎用的に利用されてきた有機スズおよび有機ハロゲン化合物との交換反応では調製が困難な不安定有機金属種の簡便な生成法を創出した。 また,上記の研究で得られた知見を基に,高周期ヘテロ原子化合物と炭素ラジカルとの反応を検討し,3 中心3 電子結合を有する高配位テルルラジカルを経て,テルル上でのラジカル置換反応(SH2反応)が速やかに進行することを見いだした。この原理を活用し,炭素ラジカルを鍵活性種とする不飽和結合への付加反応や多成分カップリング反応など,様々な合成反応を開発し,テルルを利用するラジカル反応の礎を築いた。さらに,同族の有機セレン化合物の反応へと展開するなど,ヘテロ原子の機能を巧みに活用し有機合成化学の新領域を大きく開拓した。

2.アニオン性遷移金属錯体を鍵活性種とする合成反応
 高周期典型元素の研究で得られた知見を遷移金属に拡張し,Ti,Zr,Co,Rh,Ni,Pd,Cu のアニオン性錯体を生成させ,その化学的反応特性を解明するとともに,それらを鍵活性種とするカップリング反応の新しい触媒系を数多く開発した。
 遷移金属に配位したアリル基やアルキンなどのπ 炭素配位子が金属から逆電子供与を受けやすく,アニオン性錯体を安定化するという作業仮説のもと,ジエンやアルキンの存在下,様々な遷移金属錯体にグリニャール試薬などの炭素求核剤を反応させ,炭素配位子のみからなるアニオン性錯体を生成させるとともに,それらの反応挙動を詳細に検討した。その結果,従来困難と考えられていたsp3炭素同士の効率的クロスカップリングを種々の後周期遷移金属触媒を用いて達成した。特に,銅が触媒ターンオーバー数で百万を超える高い触媒活性を有することを明らかにするとともに,カルボニル基共存下でのグリニャール試薬を用いる飽和炭素鎖の連結や,4 級炭素の構築など,従来困難と考えられていたsp3炭素基質に適用可能な汎用性の高いカップリング反応を数多く創出した。
 また神戸氏は,中性の有機金属錯体にグリニャール試薬を反応させてアニオン性錯体に変換することにより,金属に配位したπ 炭素配位子が求核的に活性化されることを見いだし,この知見を活用してオレフィンやジエン等の不飽和化合物の多成分カップリング反応を数多く開発した。この中で,酸化的付加が進行しないため遷移金属触媒反応では利用が困難と考えられてきたフッ化アルキルやクロロシランを親電子剤として利用することに成功し,不飽和結合へのアルキル基およびシリル基の簡便かつ効率的な導入法を開発した。
アニオン性錯体は電子豊富であり,1 電子供与剤としての利用も期待される。神戸氏は,アニオン性錯体からハロゲン化アルキルへの電子移動を利用する炭素ラジカルの効率的生成法を開発し,炭素︲炭素結合生成反応に応用した。その結果,オレフィンへの位置選択的なジアルキル化反応など,ラジカル反応と遷移金属錯体反応を組み合わせたユニークな炭素骨格構築法を開発した。

 以上のように,神戸氏は高周期ヘテロ原子が高配位構造をとりやすいことに着目し,テルルを中心とするヘテロ原子上でのSN2およびSH2反応の合成化学的有用性を明らかにするとともに,ヘテロ原子化学の新分野を大きく開拓した。さらに,これらの知見を遷移金属化学に応用し,様々な遷移金属のアニオン性錯体を鍵活性種とするユニークな触媒反応を多数開発した。特に,合成化学上重要なクロスカップリング反応を,sp2 およびsp 炭素を反応点とする不飽和化合物の化学から,sp3炭素を反応点とする飽和化合物の化学に拡張した功績は顕著である。これらの成果は,有機化学を中心とする広い分野の発展に大きく貢献し,国内はもとより国際的にも高く評価されている。

 本研究の成果に対して、日本化学会は、2015年、神戸 宣明(大阪大学)に日本化学会賞を贈った。

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