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動的分子構造論に基づく超高速分子過程に関する研究

  • 山内 薫山内 薫
 山内薫氏は,超高速で変化する分子の幾何学的構造に関する独創的な研究を推進し,強い光の場を用いた新しい分子科学の分野を開拓した。以下にこれらの主な研究業績を紹介する。

1.動的気体電子回折法の開拓
 気体電子回折法は,気体分子の幾何学的構造を精密に決定する実験手法として知られているが,時々刻々変化する分子の動的な挙動を高い時間分解能で追跡することは困難であった。そこで山内氏は,電子が原子や分子によって散乱される際にレーザー場から光子エネルギーの整数倍だけのエネルギーを受け取ったり,失ったりする現象(レーザーアシステッド電子散乱過程)を高速シャッターとして利用することによって,独自のレーザーアシステッド電子回折法を開発した。そして,この手法により,CCl4 にフェムト秒レーザーパルスが照射されている瞬間(520 fs)のCCl4 の電子回折像を観測した。この研究によって実現されたレーザーアシステッド電子回折法の時間分解能は10 fs に達することも可能であり,これは気体分子の幾何学的構造を実時間で追跡するという化学者の長年の夢の実現に向けた独創的な一歩である。

2.超高速分子イメージング法の開発と分子内化学結合組み換え反応の発見
 山内氏は,多原子分子が超短パルス強レーザー場によって多価イオン化される際,分子構造が大きく変形する前に多価イオン化が終了することに着目した。そして,生成した多価イオンのうち,単一の多価イオンから生じるすべての解離生成物イオン種を同時に計測する画像計測手法(コインシデンス画像法)を用いれば,解離直前の多価分子イオンの幾何学的構造を決定できることを,CS2 やN2O を例にとって世界に先駆けて示した。山内氏が導入した強レーザー場の下でのコインシデンス画像法は,多価分子イオンの構造決定法として現在広く利用されている。
 さらに,山内氏は,メタノール,アレン,メチルアセチレン,ブタジエンなどの有機分子が光イオン化に伴って高励起状態に生成する際に,生成した水素原子(またはプロトン)が分子内にとどまり,それらの水素原子が分子骨格内をフェムト秒の時間領域で移動する「超高速水素マイグレーション」過程が存在することを,コインシデンス画像法を用いた計測によって明らかにした。そして,それをプロトンの空間分布図として可視化し,同位体置換体の結果と比較することによって,2 つ以上のプロトンが,同時にかつ瞬時に分子内を移動する「超高速水素スクランブリング」の存在を明らかにした。これらの「超高速水素マイグレーション」や「超高速水素スクランブリング」の過程の存在は,強レーザー場によって励起された炭化水素分子内における水素原子のもつ顕著な動的な挙動として広く知られるようになった。
 また,山内氏は,炭化水素分子の強レーザーによる多価イオン化過程を系統的に調べ,「3 原子水素イオン」H3が生成する経路が存在することを明らかにした。そして,その生成が極めて遅くピコ秒領域の時間で起こることも突き止めた。山内氏は,量子化学計算を併用することによって,2 価の親分子イオン内において,中性の水素分子 H2が振動・回転しながらとどまり,その後,分子内のプロトンと結合してH3 が生成することを見いだした。このH3分子の生成に関わる分子内のH2 分子の存在から,分子内の水素マイグレーションが,水素原子(またはプロトン)の移動によって進行するだけでなく,水素分子というユニットが移動することによっても進行することを明らかにした。

3.強レーザー場における反応追跡と反応制御
 レーザー光によって分子の動的な挙動を制御することができるかどうかは,化学者にとって,最も魅力的なテーマであり続けてきた。しかしながら,通常の弱い光の場合には,分子内の振動エネルギー再分配過程が超高速で起こるために,特定の化学結合だけにエネルギーを集中させることは不可能であった。山内氏は,分子とレーザー場が相互作用すると,光によってポテンシャル形状が変形することに着目し,その相互作用時間を変化させれば,ポテンシャル形状によって支配される分子の動きをコントロールできることを,エタノール分子を例として明らかにした。そして,レーザー光のパルス幅を系統的に変化させることによって,分子内の別々の化学結合が切断される割合を制御できることを世界に先駆けて示した。この山内氏らの研究は,強レーザー場による反応制御においては,光の強度ばかりでなく,パルス幅を最適化することが重要であることを明確に示したものであり,その後の光反応制御の研究の指針を与えることとなった。

 以上のように,山内氏は電子回折法と分子分光学に基礎を置いて,自ら開拓した強レーザー場科学の光源技術や計測技術を導入し,多原子分子の動的挙動の解明に関して独創的な研究の最前線を切り開き顕著な業績を挙げた。化学の新分野開拓に果たした同氏の先導的な役割は,国際的にも高く評価されており,物理化学,有機化学をはじめとして,幅広い分野に大きなインパクトを与えるものである。

 本研究の成果に対して、日本化学会は、2014年、山内 薫(東京大学)に日本化学会賞を贈った。

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