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ラセン構造の精密制御とそれを基盤とする機能性キラル材料の開発

  • 八島 栄次八島 栄次
 生体高分子が示す驚くべき機能は,一方向巻きのラセン構造に起因するところが大きい。化学者は長年にわたり,精緻な生体高分子の構造と仕組みに学び,人工的にラセン構造を作り出す努力をしてきた。八島栄次氏は,20 年以上にわたり,一貫してこの課題に挑み,従前の概念や研究分野に囚われることなく高分子化学と超分子化学の境界領域で先導的な研究を行い,ラセン構造を構築するための斬新な手法を開発し,ラセン由来の特異な機能を発現する多くのラセン高分子や超分子,二重ラセン(高)分子を創成するとともに,長年の課題であったラセン構造の顕微鏡による直接観察や二重ラセン構造に起因する初めての不斉触媒反応の開発,光学分割材料への応用に成功するなど,高分子や超分子化学,材料化学の分野に大きなブレークスルーをもたらした。以下に同氏の主要な業績を紹介する。

1.高分子へのラセン構造の誘起と記憶の発見およびキラル材料への応用
 G. Natta らによるラセン高分子合成の最初の試み以降,世界中の研究者が重合反応を利用して,ラセン高分子の合成に挑んできた。八島氏は,これまでの常識を払拭し,プラスチックを含む多くの高分子に,望みの向きのラセン(右巻き/左巻き)を光学活性体との相互作用を介して,後から自在に構築できる画期的な手法(ラセン誘起)を開発し,このようにして誘起したラセン構造が,光学活性体を完全に取り除いた後でも,その情報を「記憶」できるという予想外の現象を発見した。同氏は本手法を温度や溶媒によってラセン反転する動的なラセン高分子に適用し,ラセン反転を利用した左右のラセンの記憶と保存を達成した。さらに,この現象が固体状態でも起こりうることを見いだし,光学異性体の溶出順序を自在にスイッチ可能なキラル固定相の開発へと展開した。また,汎用性高分子の1つであるポリメタクリル酸メチル(PMMA)にフラーレンを包接可能なラセン空孔が存在し,ラセン誘起と記憶の手法を用いて合成した光学活性PMMA による高次フラーレンの光学分割を達成するとともに,半世紀以上にわたって構造が不明であったPMMA ステレオコンプレックスの不斉合成と構造解析にも成功した。本発見は,柔軟かつアキラルな汎用高分子から,光学活性なラセンを誘起しうることを明確に示した初めての例であり,汎用高分子のラセン制御に基づく高機能化の可能性を開拓した。
 同氏はまた,これまでの通説を覆し,安定なラセンと信じられてきたポリイソシアニドが動的なラセンであることを実証するとともに,ラセン構造を記憶したポリマーによる不斉触媒能や光学分割能を有するキラル材料の開発にも成功した。さらに,天然に豊富に存在する光学活性体を側鎖に有する様々のラセン高分子を合成し,これらが高い不斉触媒能と光学分割能を併わせ持つ実用的なキラル材料になりうることも実証した。

2.高分子のラセン構造の決定と原子間力顕微鏡による直接観察
 ラセン構造およびその向きの決定は,ラセン高分子研究にとって,最も基本的かつ最重要課題であるが,これを可能にする方法はなかった。八島氏は,多くの構造未知のラセン高分子に剛直な主鎖構造からなる液晶性を付与させ,そのラセンピッチを配向フィルムのX 線構造解析(XRD)により次々と決定するとともに,有機溶媒の飽和雰囲気下,基板上でラセン高分子を二次元結晶化させるという独自の技術を開発し,これにより,前述のPMMA ステレオコンプレックスや二重ラセン高分子を含む,様々のラセン高分子のラセン構造を原子間力顕微鏡(AFM)で直接観察し,その向きやピッチ,ラセンの片寄り,ラセン反転までをも世界に先駆けて直接観測することに成功した。AFM で求めたラセンピッチは,XRD で求めた値と極めて良く一致し,本手法が一般性の高い手法となりうることを示した。実際,フォルダマーや非共有結合からなるラセン集合体のラセン構造のAFM による直接観察にも成功した。

3.二重ラセン構造の制御と機能開発
 DNA 類似の二重ラセン分子や高分子の合成は化学者にとっての大きな目標の1つであるが,それを可能にする合成戦略は世界的にも限られていた。八島氏は,二重ラセン構造を基盤とする化学にも大きな貢献をしてきた。m—ターフェニル骨格を基本とした様々の相補的二重ラセン分子や高分子,ヘリケートや水溶性二重ラセンを次々と合成し,ラセンの向きをも制御した二重ラセン分子や高分子を合成するための新たな方法論を開発した。これにより,これまで実現が困難であった,DNA 同様の鎖長および配列認識能を有する二重ラセンやそのテンプレート合成,刺激によりラセンがバネのように可逆的かつ,一方向の回転を伴い伸縮運動する分子スプリングの実現を世界に先駆けて達成した。また,同氏が開発したラセン誘起と記憶の概念を二重ラセンに適用し,不斉触媒活性のある初めての合成二重ラセンの創成にも成功した。

 以上のように八島栄次氏は,高分子へのラセン誘起と記憶の発見を契機に,ラセン構造に由来する特異な機能を発現する高分子や超分子,二重ラセンを独自の方法論を駆使して創成するとともに,ラセン構造の顕微鏡による直接観察やラセン構造に起因する高分子不斉触媒や光学分割材料の開発など,八島氏独自のラセン研究の世界を築き上げてきた。

 本研究の成果に対して、日本化学会は、2014年、八島 栄次(名古屋大学)に日本化学会賞を贈った。

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