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特異なπ共役有機分子およびその集合体の創出に関する研究

  • 戸部 義人戸部 義人
 戸部義人氏は,構造有機化学の分野において先導的な研究を行った。すなわち,大きなひずみや特異な構造と電子状態をもつπ共役有機分子の合成と物性に関する研究,および二次元空間における超分子集合体の構築に関する研究において顕著な業績を挙げた。以下に同氏の業績の概要を述べる。

1.高ひずみパラシクロファンの合成と芳香族性の検証
 代表的な芳香族化合物であるベンゼンの平面性と芳香族性との関係は,有機化学において古くから議論されてきた基本的な問題である。特にベンゼンのパラ位を炭素鎖で架橋した[n]パラシクロファン(nは架橋炭素数)はこの問題を検証する最適のモデル化合物であるため,より短い架橋鎖をもつ分子の合成と芳香族性の検証が常に課題とされてきた。戸部氏は,独自の合成法を開発することにより,単離可能な母核化合物としては最も短い架橋鎖をもつ[6]パラシクロファンやそのアントラセン類縁体を合成し,それらの分子構造やひずみに起因する特異な反応性を明らかにした。さらに架橋鎖の短い[5]パラシクロファンの同定にも成功し,著しい非平面構造にもかかわらずそのベンゼン環の芳香族性が維持されていることを明らかにすることにより,平面性と芳香族性の議論に結論を下した。

2.[2+2]開裂反応を利用した高反応性環状ポリインの生成
 シクロカーボンは炭素のみで形成される単環状π共役分子であり,その特異な構造や芳香族性との関係だけでなく,それらがフラーレンの生成機構に関連しているという仮説に関連して多大の関心がもたれていた。戸部氏は,安定で取扱いが容易なシクロカーボン前駆体として[4.3.2]プロペラン型のシクロブテン誘導体を設計し,その[2+2]開裂反応による真空下でのシクロカーボンイオンの生成と,光電子分光法によるシクロカーボンの分子構造の解明に成功した。また,本方法を用いて発生させた三次元構造のポリインイオンからのフラーレン骨格への環化異性化の可能性を見いだすとともに,関連する高ひずみ環状ポリインの溶液中ならびに極低温下の希ガスマトリクス中での生成と同定を行った。さらに,ポリインの環化反応に関連して,安定な環状ポリインの溶液中における連続環化反応を用いて新規芳香族骨格の構築法を開拓した。

3.非交互系ジラジカル性芳香族炭化水素の合成と特異な物性
 最近,半導体的物性や非線形光学特性などの光電子機能の観点から,ジラジカル性を有する芳香炭化水素の化学が注目を集めている。戸部氏は,特異な電子状態の発現が期待される非交互炭化水素系のジラジカル性分子に焦点を絞り,この分野においてほかと一線を画した独創的研究を展開した。例えば,一般にπ共役系が大きくなると第一励起電子遷移のエネルギーは小さくなるが,メタキノジメタン構造をもつインデノ[2,1-b]フルオレンとその同族体でより大きなπ共役系をもつフルオレノ[2,3-b]フルオレンを合成し,それらの第一励起電子遷移を比較することにより,この常識が必ずしも成り立たないことを明らかにした。また,外周20π,内周8π という二重の反芳香族骨格から構成されるテトラシクロペンタテトラフェニレンの合成に成功し,一重項テトララジカル性炭化水素の存在の可能性を初めて明らかにした。これらの研究は,構造の新奇性とそれに起因する特異な物性の観点から同分野において際立っている。

4.環状アリールアセチレンの固液界面における自己集合による多孔性二次元分子ネットワークの構築
 最近,ボトムアップ型有機エレクトロニクスや精密に制御された反応場としての観点から,分子の自己集合を利用した固体表面における二次元ナノ構造の形成に多大の関心がもたれている。特に,多孔性の分子ネットワークは,複数の成分から構成される二次元ナノ構造が構築できるため,特段の興味がもたれている。戸部氏は,アルキル置換された三角形の環状アリールアセチレンのかたちと化学的特性を巧みに利用し,有機合成化学の手法と走査型トンネル顕微鏡を用いた表面観測技術を駆使することにより,この分野において画期的な成果を挙げた。すなわち,有機溶媒と固体基板の界面において,三角形分子がその周囲に取り付けたアルキル鎖間のvan der Waals 相互作用によりハニカム型の多孔性分子ネットワークを形成することを見いだすとともに,半定量的な熱力学モデルを立て,分子集合体の構造パターンを予測する指標を提唱した。さらに二次元空孔への選択的なゲスト分子の取り込みと外部刺激による吸脱着の制御を達成し,二次元超分子化学の分野で先導的な研究を行った。

 以上のように,戸部氏は極めて特異な構造や電子状態を有するπ共役有機分子を次々と合成し,その構造と物性を解明することにより,基礎有機化学の進歩に多大な貢献した。さらに,固体表面における超分子構造の形成と制御の研究を展開し,二次元超分子化学の分野で先導的な研究を行うことにより,有機化学のフロンティアを開拓した。その成果は,有機化学のみならず材料化学の分野にも大きな波及効果を及ぼしており,国内外から高く評価されている。

 本研究の成果に対して、日本化学会は、2014年、戸部 義人(大阪大学)に日本化学会賞を贈った。

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キーワード

π共役有機分子、構造有機化学、超分子集合体の構築、パラシクロファン、高反応性環状ポリイン、シクロカーボン分子構造、新規芳香族骨格構築法、非交互系ジラジカル性芳香族炭化水素、テトラシクロペンタテトラフェニレン、多孔性二次元分子ネットワーク、ハニカム型の多孔性分子ネットワーク、基礎有機化学、二次元超分子化学
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