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弱い相互作用に基づく自己組織化を利用した次元制御高分子材料の開発

  • 明石 満明石 満
 高分子の重要な性質のひとつに「弱い相互作用の発現」がある。合成,天然のいかんを問わず,高分子間の水素結合,静電的,そして疎水性相互作用は,高分子の形状,形態や強度発現に極めて重要である。低分子系では機能分子創製に組み込むことが難しい弱い相互作用が高分子系では強く増幅されて発現し,自己組織化を通して多くの高分子材料に活用されている。明石 満氏は,弱い相互作用を高分子設計・創製に積極的に活用し,高分子合成の反応場設計や,多くの機能材料を創製した。以下に業績を紹介する。

1.van der Waals 相互作用によるステレオコンプレックス薄膜の創製とテンプレート重合
 高分子の構造化や結晶化にvan der Waals 相互作用が働くことは少なくない。典型的な立体規則性高分子であるイソタクトおよびシンジオタクト—ポリメチルメタクリレート(i-PMMA およびs-PMMA)やポリl—乳酸(PLLA)とポリd—乳酸(PDLA)のステレオコンプレックス(SC)はその例である。高分子間静電的相互作用を用いる積層膜は交互積層法(LbL 法)によって生み出され,水素結合や静電的相互作用等の比較的強い相互作用を駆動力として研究されてきた。氏は,溶液中でのみ得られていたSC をLbL 法で形成できることを初めて見いだした。次に,シンジオタクト—ポリメチルメタクリ酸(s-PMAA)を用いて,i-PMMA とs-PMAA のSC を形成し,溶解性の差を利用して一方を溶出することにより,i-PMMA およびs-PMAA の積層膜へ誘導した。ナノ薄膜は溶出した立体規則性高分子と再びSC を形成し,立体規則性高分子の認識がLbL ナノ薄膜で行われることを見いだした。さらに,このLbL 薄膜がテンプレート重合の反応場として有効であることを明らかにした。テンプレート重合法による精密重合は,金属触媒を用いないラジカル重合による立体規則性重合の初めての例である。さらにLbL 法とインクジェット法を組み合わせた研究を展開している。

2.π-πスタッキング相互作用を用いる環境適合高強度材料の創製
 PLA は,ラセミ化を回避する重合法が開発され,結晶化により強度が確保され汎用性高分子に加えられるまでになった。しかし,より強度に優れた生分解性環境適合性高分子の開発が重要である。いわゆるバイオベースモノマーとして,乳酸に代わって芳香族バイオモノマーである種々の桂皮酸誘導体に着目し,カフェ酸とヒドロキシ桂皮酸の共重合体を成型加工可能な液晶性の生分解性高強度材料として合成した。さらに,PLA の両末端にベンジルアルコールと桂皮酸誘導体を持つSC を,植物由来物質で組み立てた生分解性材料として生み出した。強度と耐熱性は,ベンゼン環同士の相互作用を高分子材料内で発現させたことに起因する。

3.疎水性相互作用による自己組織化高分子ナノ粒子の創製と医療応用
 DDS や免疫診断のための高分子微粒子研究が重要となっている。氏は,高分子の水系での疎水性会合に着目し,水分散性高分子微粒子研究を展開した。特に,生医学材料への応用展開のために安全性を担保できる生分解性を重視し,納豆菌が産生する水溶性高分子であるポリg—グルタミン酸(g-PGA)を用い疎水性アミノ酸を側鎖に導入し,系統的に展開してきた疎水性コア—親水性コロナ型ナノ粒子の基礎研究を応用し,粒径の制御と組成の制御を行った。この疎水化γ -PGAナノ粒子をワクチンアジュバントへ展開し,インフルエンザ等の感染症や癌に対して有効な新しいワクチンシステムを構築し,免疫担当細胞内へ抗原タンパクが運ばれるメカニズムと免疫応答を明らかにした。氏の工学的アプローチによるナノ粒子を用いたワクチン研究は,新しいアジュバント材料の分子設計指針としても高く評価されている。

4.タンパク質間の分子認識機構を利用した細胞の三次元組織化制御と医療応用
 種々のタンパク質や糖鎖等の生体分子が巧みに働いて生命が維持されている。非共有結合を巧緻に用いる典型である。氏は,このタンパク質間の相互作用を用いることで,再生医療や創薬分野の重要な課題である生体外での三次元構造(3D)組織の構築を達成している。生体組織は細胞と細胞外マトリックス(ECM)タンパク質で構成される3D 組織である。氏は,ECM タンパク質であるフィブロネクチン(F)とコラーゲンあるいはゼラチン(G)の役割に注目し,細胞膜表面にタンパク質(F とG)間のアフィニティーを駆動力としたナノ薄膜を形成し,細胞間の接着を誘起することで細胞の種類と三次元配置を制御し組織化する革新的な手法を生み出した。本手法により細胞の三次元配置を達成し血管,皮膚,筋組織,肝臓などの3D 組織モデルの構築を実現した。次に,生体内の組織と類似の薬剤応答性を示すことを明確に示し,動物実験に代わるヒト細胞を用いた3D 組織モデルとして有効であることを明らかにした。生体内類似の三元血管ネットワーク構造の構築が達成されていることから再生医療分野への展開が期待され,iPS 研究と歩調を合わせて,再生医療や創薬分野で大きく貢献すると思われる。

 以上,明石氏は弱い相互作用を高分子機能材料設計に積極的に持ち込み,基礎研究と応用研究を進めてきた。また,医学研究者に先端化学の重要性を啓蒙し意見交換と連携を行い,高分子化学分野に留まらない大きな波及効果をもたらした。


 本研究の成果に対して、日本化学会は、2014年、明石 満(大阪大学)に日本化学会賞を贈った。

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