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高電子移動度トランジスタ(HEMT)の研究開発

  • 写真なし三村 高志
  • 写真なし冷水 佐壽
HEMTのエネルギーバンド図

図1 HEMTのエネルギーバンド図

高電子移動度トランジスタ(HEMT)の断面図

図2 高電子移動度トランジスタ(HEMT)の断面図

同一基板上に作製したEモード、DモードHEMTの断面図

図3 同一基板上に作製したEモード、DモードHEMTの断面図

 1970年代後半は高速電子計算機や高速信号処理装置、あるいは通信機器の高性能化をめざして、Siデバイスの微細加工技術の改良研究が盛んであった。また一方で、Siデバイスの限界性能を超える高速動作が期待できる素子として、超伝導を利用するジョセフソン素子や、Siより電子移動度の高い化合物半導体デバイス、中でもGaAsデバイスの研究開発も進行していた。

 こうした開発競争さなかの1979年、金属酸化膜半導体GaAsの高電子移動度を極限まで引き出した超高速デバイスが登場した。富士通研究所で発明された「高電子移動度トランジスタ」(HEMT)である。GaAsとAlGaAs、つまり二つの異なる材料から成るヘテロ接合結晶界面に2次元電子層が発生し、蓄積することを知ったのがきっかけであった。

 GaAs基板にAlGaAsを重ね合わせるのに分子線エピタキシャル結晶成長法(MBE)を採用し、高純度のGaAsとSiをドープ(添加)したn形AlGaAsをGaAs基板上に接合させた。そしてその界面に発生する電子層を調べたところ、電子はAlGaAs中のドナーよりGaAs中に供給されており、電子蓄積層は非常に薄い(10nm以下)ことが明らかになった(図1)。

 この電子層は、電子を発生するn形AlGaAs中の母体ドナーより空間的に分離されているため、不純物の影響が小さく高い電子移動度を持っている。特に低温では電子輸送メディアであるGaAsの格子散乱による影響が減少して、電子移動度が著しく増大することが実証された。つまり、動作温度5Kでは電子移動度は120万cm2/V.sに達し、光によってキャリヤを励起すると200万cm2/V.sまで上がったのである。

 次の挑戦は、2次元電子層を活用した新しい超高速トランジスタの試作だった。n形AlGaAs層とGaAs層を重ね、前者の表面にソース電極、ドレイン電極、ショットキーゲート電極を設けたところ、電界効果トランジスタ(FET)構造を持つトランジスタHEMTが出来た(図2)。ゲート電極の導入によりn形AlGaAs層の中の電子が排除され、GaAs層内の電子蓄積層に電界効果が及ぶようになった。単体HEMTでは、液体窒素温度(77K)で最高409mS/mmの相互コンダクタンスが得られ、HEMTが超高速電子デバイスに適することが実証された。

 さらに同一基板上にエンハンスメントモード(Eモード)とデプレッションモード(Dモード)の二型のHEMTを形成する技術開発により、HEMTのIC化が可能となった(図3)。この技術を用いて27段リング発振器を試作したところ、1段あたりのスイッチ遅延時間12.8ps、消費電力0.96mWという高速、低消費電力の特性が観測された。これはジョセフソン素子と同等の高速性能である。

 その後1985年には、HEMTは世界一雑音の小さいマイクロ波半導体デバイス製品として富士通より製品化され、野辺山天文台の電波望遠鏡に採用された。さらに低雑音性により衛星放送アンテナの小型化も可能になり、1987年から世界各国の衛星放送受信機にHEMTが搭載され、家庭にも普及している。

 本研究の成果に対して、電子情報通信学会は、1983年、三村 高志(富士通研究所)、冷水 佐壽(富士通研究所)に業績賞を贈った。

文献

[1] S. Hiyamizu, T. Mimura, T. Fujii, and K. Nanbu、High mobility of two-dimensional electrons at the GaAs/n-AlGaAs heterojunction interface、1980年、Applied Physics Letters, Vol. 37, p. 805
[2] T. Mimura, S. Hiyamizu, T. Fujii, and K. Nanbu、A new field-effect transistor with selectively doped GaAs/n-AlxGa(1-x)As heterojunction、1980年、Japanese Journal of Applied Physics, Vol. 19,
p. L225
[3] S. Hiyamizu and K. Nanbu、High mobility electrons in selectively doped GaAs/n-AlGaAs heterostructures grown by MBE and their application to high-speed devices、1982年、Journal of Crystal Growth, Vol. 56, p. 455
[4] Y. Yamashita, A. Endoh, K. Shinohara, K. Hikosaka, T. Matsui, S. Hiyamizu, and T. Mimura、Pseudomorphic In0.52Al0.48As/In0.7Ga0.3As HEMTs With an Ultrahigh fT of 562 GHz、2002年、IEEE Electron Device Letters, Vol. 23, p. 573
[5] K. Shinohara, Y. Yamashita, A. Endoh, I. Watanabe, K. Hikosaka, T. Mimura, S. Hiyamizu, T. Matsui、547-GHz fT In0.7Ga0.3As-In0.52Al0.48As HEMTs With Reduced Source and Drain Resistance、2004年、IEEE Electron Device Letters, Vol. 25, p. 241

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