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疲労耐久性に優れた新合金鋼制振ダンパーの開発

疲労耐久性に優れた新合金鋼(Fe-Mn-Si系合金鋼)制振ダンパー外観

写真1 疲労耐久性に優れた新合金鋼(Fe-Mn-Si系合金鋼)制振ダンパー外観

櫛部 淳道
澤口 孝宏
丸山 忠克
津﨑 兼彰

 低降伏点鋼の塑性変形によって地震入力エネルギーを吸収する鋼材ダンパーは、低コストで高剛性という特長をもち、新築建物の地震応答制御や既存建物の耐震補強に広く用いられてきた。しかし、近年注目されている長周期・長時間地震動下では、多数回の繰返し大変形によって鋼材が疲労限界を超える恐れがあるため、より高コストのオイルダンパー等を使用するケースが増加している。このような状況を背景として、開発者らは、異分野、産官学の共同研究で、①疲労耐久性の高い新合金、②大型圧延部材の製造技術、③面外変形による損傷や座屈を抑制した機構の開発を行い、長周期・長時間地震動に対応できる高疲労耐久性鋼材ダンパーを実現させた。
 新合金の開発に当たっては、金属の弾塑性変形メカニズムに着目し、Fe-Mn-Si系合金が変形時に原子結合が切れにくい応力誘起マルテンサイト変態を起すこと、引張り-圧縮の繰返し変形時にはこの変態が可逆的に生じるために疲労損傷の起点となるミクロな欠陥が生じにくくなることを発見した。この知見を活かし、開発者らは、Fe-Mn-SiにCrとNiを加え、従来の鋼材の10倍の疲労耐久性を有する新合金の開発に成功した。
 一方、Mnを多く含む合金は大型電気炉溶解が困難である。そこで開発者らは、疲労耐久性を変えない範囲で成分比率を最適化し、実生産に用いられている電気炉で溶融が可能な、Mnを前記合金の1/2に減少させた合金を開発した。これにより、大型ダンパー素材の製造や大量生産が可能となった。
 この鋼材を使用した層間変位ダンパーは、変形部分が高さ800mm、幅1,500mm、厚さ16mmであり、左右端部に円弧状の切り欠きを設けることによって降伏荷重や初期剛性をコントロールしている。また、二重の補剛板でダンパーの両面を挟み込み、ダンパーの座屈発生時の面外変形の抑制や、ダンパーの面外方向の建物層間変形によるダンパーの損傷を低減する効果をもたせている。
 1/2に縮尺した模型による正負交番漸増実験結果は、繰返しによる耐力低下がほとんどない紡錘形の履歴特性を示し、一定歪振幅での繰返し実験では、通常の鋼材ダンパーに比べて10倍の疲労寿命が確認された。本ダンパーは、高さ200m級の超高層建物において、地震時に変形が集中する階高が大きい箇所に2014年初適用された。
本技術は、鋼材ダンパーの低サイクル疲労損傷に対する不安を大きく低減した優れたものである。また、疲労損傷が起こりにくい金属素材の実験室レベルでの開発から始め、実用化のための改良を経て、当素材を適用した座屈や面外変形に強いダンパーの製品化に結実させたものであり、異分野かつ産官学の協働体制の好例とも言える。なお、損傷疲労が起こりにくい理由を説明する変形メカニズムの解明は金属工学初である。
 以上、本技術は、近い将来の発生が予測される巨大地震時の被害や居住者の不安を低減する技術として高く評価されるものである。

 本研究の成果に対して、日本建築学会は、2016年、櫛部 淳道((株)竹中工務店技術研究所建設材料部先端材料グループ長)、澤口 孝宏((国研)物質・材料研究機構グループリーダー)、丸山 忠克(淡路マテリア(株)顧問)、津﨑 兼彰(九州大学大学院工学研究院機械工学部門教授)に日本建築学会賞(技術)を贈った。

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地震防災対策、新合金鋼制振ダンパー、高疲労耐久性鋼材ダンパー、応力誘起マルテンサイト変態、層間変位ダンパー
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