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竹林寺納骨堂

竹林寺納骨堂

写真1 竹林寺納骨堂

堀部 安嗣

 五台山四国霊場第三十一番札所竹林寺は、土佐の平野を睥睨する小高い丘の上にある。境内は丘の深い雑木林に包み込まれ、市井からその塔頭を伺うことはできない。角の磨耗した石段を登り切ると、右手に肉厚の量塊を魅せる杮葺きの本堂が迎える。本堂と書院は国指定の重要文化財である。納骨堂はその本堂をやり過ごし、さらに石段を踏み登った先にある。建物の屋根は低い。獣道と見紛うばかりに簡素な小径が途切れた先に、目的の建物は境内の水を含んだ苔の合間に低く這いつくばっている。
 納骨堂の軒下には二台の長椅子があり、一人の三十歳代とおぼしき若者が壁を背にして涼しげな読書に耽っていた。骨が無数に詰まった箱の真裏で読書するとは珍しい趣向であると思い声を掛けてみると、「納骨堂であることは知っている」とのこと。「心地良いので時々足を運ぶお気に入りの読書スポットである」と言う。堀部安嗣氏の説明に気を取られている隙に、ふと気がつくと若者は話途中でどこかへ去ってしまった。なるほど、この納骨堂に陰湿さはかけらもない。ここなら終の棲家として成仏できそうである。
 壁の陰に沈む石段を下ると廊下の両側に納骨堂の入口がある。納骨堂の棚一つひとつには骨壷が少しだけ透けて見える扉が付いている。もし、この扉が反対側の見えない塞ぎ板であったら印象は全く違ったものになる。見えるわけでもなく見えないわけでもない適切な緊張感が、縁者との再会をより大切な行為にしてくれている。入口には小さな水場がある。これも石を削り出して建築に埋め込んでいる。納骨堂という目的意識に則った創意工夫がそこかしこに散りばめられていた。
 堀部安嗣氏の作品には、とりたてて派手な現代社会へのメッセージが込められていたり、時代を画する独創性が光っているわけでもない。ただひたすら刃物を研いでいくように、小さな努力を砥石に擦り込んでいく無言の業である。寛永二十二年より無数の匠が研鑽を重ねてきた堂宇に囲まれて建つとき、たかが一世紀ほどの歴史しか持ち得ない近代建築の観点から論破することは無粋である。この現代の職方が想いを込めた作品は、先達が積み上げた歴史に加えられた一段でしかない。この作品を日本建築学会賞として本当にふさわしいのか吟味する者は、本来われわれ審査員一同ではなく、数世代後の土佐の子孫であると思うのである。

 本研究の成果に対して、日本建築学会は、2016年、堀部 安嗣((有)堀部安嗣建築設計事務所代表取締役社長)に日本建築学会賞(作品)を贈った。

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竹林寺納骨堂、納骨堂、骨壺、水場、長椅子
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