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アルミチタンナイトライド[(Al,Ti)N]コーティングを施した超硬エンドミルの開発

(Al,Ti)N膜とTiN膜の基本特性

表1 (Al,Ti)N膜とTiN膜の基本特性

被削材硬度に対応した超硬エンドミルの形状

表2 被削材硬度に対応した超硬エンドミルの形状

(Al,Ti)N及びTiNコーティング超硬エンドミルの切削性能(高硬度タイプ,被削材SKD61,55HRC

図1 (Al,Ti)N及びTiNコーティング超硬エンドミルの切削性能(高硬度タイプ,被削材SKD61,55HRC

金型加工の焼入後切削加工化による生産性向上

図2 金型加工の焼入後切削加工化による生産性向上

1.概要

 近年,金型加工の生産性向上,高精度化,短納期化の要求にともない,切削加工の高速化や焼入鋼など高硬度材の切削加工の必要性が高まってきた.特に金型加工で必要なエンドミル加工は断続切削であるので,従来のTiN系コーテイング超硬エンドミルでは微小チッピングが発生し摩耗も大きく,これらの品質要求に対応することは難しい.

 そこで,この問題を解決するため新膜質の(Al,Ti)Nをコーティングした超硬エンドミルを開発した.

 この開発のポイントは,(1)新しいコーティングとして3元系合金膜を種々探索し,硬度と耐酸化性を向上させた,(2)多成分系合金膜を安定して高い密着力でコーティングできる量産技術を開発した,(3)微小チッピングの抑制に適した超微粒系の超硬母材を開発した,(4)高硬度被削材に対応するため,刃先強度と剛性の高いエンドミル新形状を開発した.

 これらの結果,開発された(Al,Ti)Nコーティング超硬エンドミルは,優れた切削性能を示した.すなわち(1)工具寿命が従来のTiN系の2~5倍に向上した,(2)焼入鋼などの高硬度材のエンドミル加工が可能になった.特に,新形状の超硬エンドミルにより硬度が50~65HRC程度の焼入鋼の切削加工ができるようになった,(3)切削速度も大幅に向上でき,S50C鋼の加工では従来の切削速度が50m/min程度であったのが,10倍の500m/minでも切削できるようになった.そして,高速スピンドルを装備した高剛性のマシニングセンタにより,さらなる高速加工が追求されている.

 この切削特性のなかでも,特に熱処理後の高硬度材が切削加工できるようになったごとから,金型の製造において,従来の放電加工工程の削減やみがき作業の削減が可能になり,大幅なリードタイムの短縮とコストダウンを達成できた.

2.技術の特徴

 2・1 (Al,Ti)Nコーティング技術の開発  従来から断続切削用工具のコーティングには,比較的低温で処理できるPVD法が用いられてきた.その膜質はTiN系膜が主流である.最近は,新膜質としてTiCN膜や(Al,Ti)N膜などが研究され,当社は(Al,Ti)N膜を,まず超硬ドリルに適用した.続いて本開発では超硬エンドミルに最適なコーティングを探索した.この(Al,Ti)N膜では硬度と酸化開始温度が共に,TiN膜の1.3倍以上になる(表1).

 次に,この新膜質を安定して高い密着力でコーティングする量産技術を開発した.その方法は,陰極アークイオンプレーティング法であり,陰極ターゲットとしてAlTi合金を用いてアーク放電にてAlTi合金そのものを溶融・蒸発・イオン化し,窒素ガスと反応させ,工具表面に(Al,Ti)N膜を形成していく.特に,本法では蒸着の前工程として,この金属イオンによりワーク表面をスパッタクリーニングできるのが大きな特徴であり,密着力が非常に優れている.

 2・2 超硬母材と形状  超硬母材としては,微小チッピングの発生を抑制するため,超微粒系で最適組成を探索した.その結果,硬度が91.5HRAで,抗折力が400kg/mm2と高速度鋼なみの値にすることができた.また表2に示すように,形状としては切れ刃がシャープエッジである汎用品と高硬度材用の新形状も開発した.これは,剛性と耐チッピング性を向上させるため心厚と刃数を増加し,さらに刃先強度を増大させるため,すくい角を負にし,面取りを施した.また切削抵抗の増加を抑制するため,ねじれ角を45°と大きくしている.

3.切削性能

 図1に開発した高硬度材用の新形状(6枚刃)超硬エンドミルの切削性能を示す.焼入後のSKD61(55HRC)を側面加工した場合の直径減少量を測定した.無処理品は早期に切削不能になり,TiN処理品も急速に摩耗が増大した.これに対し(Al,Ti)N処理品では摩耗が小さく安定し,刃先も損傷せず,寿命はTiNの5倍以上となり,(Al,Ti)Nコーティングの効果が大きい.

 さらに硬度が高い被削材の場合でも,エンドミル加工が可能になった.例えば,高速度鋼(SKH51,62HRC)でもクリープフィード研削と同等の送り速度で加工できるようになり,またS50C鋼のような機械構造用鋼では主回転数が20000rpmのマシニングセンタでも送り速度が10m/min以上の高速加工が可能となり,加工能率の向上に大きく寄与できた.

 以上のように,(Al,Ti)Nコーテイングの効果が,高硬度被削材や高速加工条件下で特に大きいのは,皮膜の耐酸化性が優れているためと考えられる.

4.金型加工での効果

 本開発の超硬エンドミルを用いて焼入鋼など高硬度材を高速でエンドミル加工ができるようになったことは金型加工にとって革新的な効果がある.製造工程の変革の一例を図2に示す.新工程では焼入後に切削加工(荒・仕上)できるため,従来工程で必要であった焼入後のひずみ取り加工や放電加工が不要になり,また,みがき工程も大幅に削減できるなど加工時間やリードタイムが30~50%短縮できた.さらに高速スピンドルを装備した高剛性のマシニングセンタの普及にともない高速加工も推進されてきており,本開発の(Al,Ti)Nコーティングした超硬エンドミルの適用分野はさらに広がっていくものと思われる.

5.まとめ

 エンドミル加工の高速・高硬度材化に対応するため,(Al,Ti)Nコーティングした超硬エンドミル(商品名:ミラクルエンドミル)を開発した.特に,新コーティング膜は,膜硬度や酸化開始温度も従来のTiN膜より優れている.さらに超硬母材や切れ刃形状も改善した結果,硬度が50~65HRCの焼入鋼のエンドミル加工が可能になり,金型製作の工程を変革する画期的な手段の一つとして期待されている.また,高速・高剛性の工作機械の進歩とともに,なお一層の高速切削が指向されており,今後も一層産業界に貢献できると期待されている.

 本研究の成果に対して、日本機械学会は、1995年、脇平浩一郎((株)神戸製鋼所)、小峰武夫(同左)、町田正弘(同左)、山田保之(同左)、青木太一(同左)に日本機械学会賞(技術賞)を贈った。

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コーティング、超硬エンドミル、金型加工、断続切削、3元系合金幕、超硬簿材、密着力
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