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自動車用ミラーサイクルガソリンエンジンの開発

吸気弁遅閉じの効果

図1 吸気弁遅閉じの効果

リショルムコンプレッサーの性能

図2 リショルムコンプレッサーの性能

エンジン主要諸元

表1 エンジン主要諸元

エンジン出力性能曲線

図3 エンジン出力性能曲線

エンジン燃費性能曲線

図4 エンジン燃費性能曲線

実用走行燃費

図5 実用走行燃費

1.はじめに

 地球環境問題の社会的認識が高まり,地球温暖化の原因となるCO2の排出量低減が自動車技術の大きな課題となってきている.この解決手段としてリーンバーンシステムが実用化されているが,走行性や排気ガス規制との両立のため,その適用は比較的限定されているのが現状である.我々は,上級車クラスに求められる車本来の走りと低燃費を実現させるためにミラーサイクルエンジンを開発した.

2.技術概要

 ミラーサイクルとは,1947年にR.H.MillerがASMEに発表した吸気冷却を行う過給燃焼サイクルである.吸気弁を下死点前に閉じる(早閉じ)事によって,「圧縮比<膨張比」を実現し,吸気圧縮機(過給機)と吸気冷却器を組み合わせて,燃焼サイクルの温度を高めることなく小排気量エンジンでより高いトルクを発生することができる.

 今回開発したミラーサイクルエンジンは,このミラーの原理を自動車用ガソリンエンジンに適したシステムとして実現したもので,「吸気弁遅閉じ」と「リショルムコンプレッサ」にその特徴がある.

 (1)吸気弁遅閉じ  吸気弁早閉じのミラーサイクルは,高回転でのエンジン吸気量が極端に減少して必要な吸気圧が高くなり過ぎるため,使用回転範囲の広い自動車用エンジンには適しているとは言えない.本エンジンで採用した吸気弁遅閉じによるミラーサイクルは,高回転でのエンジン吸気量の減少が抑えられ,低中速回転では有効圧縮比減少によるノッキング防止効果が大きいという,ガソリンエンジンに適した特性を持っている.

 吸気弁閉タイミングを変えたときのエンジンの特性の変化を図1に示す.吸気弁遅閉じの増加によってノック限界が高くなり,点火時期を進めることが可能になるため,排気ガス温度が大きく低下している.同時に熱効率も向上する.その結果として,以下の二つのミラーサイクルの特徴がある.

 ① 遅閉じ量が大きいほど,ノッキング発生,排気ガス温度上昇を抑制できるため,充てん効率を高めることでより大きなトルクを発生できる.

 ② 遅閉じ量が大きいほど,同じトルクを発生するために必要な吸気圧が増加するため,より圧力比の高い圧縮機が必要となる.

 (2)リショルムコンプレッサー  ミラーサイクルの実現のためには,高い吸気圧力を発生できる応答遅れのない吸気圧縮機が必要である.この条件を満たす自動車用過給機としてリショルムコンプレッサーを新たに開発した.図2にこのリショルムコンプレッサーの性能を示す.連続的な内部圧縮の効果によって,圧力比の高い領域まで高効率の特性を維持し,2.6倍の圧力比まで使用可能である.

3.エンジン主要諸元

 表1にV6 2.3Lミラーサイクルエンジン,V6 2.0L従来エンジンおよびV6 2.0Lターボ過給エンジンの主要諸元を示している.特徴的なのは過給エンジンでありながら非常に高い圧縮比10を設定している.そして,吸気弁閉時期を従来のエンジンより約30度遅い70deg.ABDCにしていることである.これにより吸気弁閉時期で定まる有効圧縮比は7.6まで低下するが,従来の過給エンジンとほぼ同等の値を維持しているため,冷寒時の始動性や,燃焼性は十分確保されている.

4.エンジン主要性能

 (1)全負荷性能と過渡応答性  図3に全負荷性能を示しているが,全域にわたり3Lエンジンを上回るトルクが得られていることがわかる.又,リショルムコンプレッサーと電子制御エアバイパスシステムにより低速域からの加速においてもリニアなトルク特性が得られ,ターボ過給エンジンとは違って真に大排気量エンジンと同様の走りが実現できている.

 (2)燃費性能  過給エンジンとしてみれば,自動車用ガソリンエンジンの中で,おそらく世界最高の圧縮比10(というよりも膨張比10)を実現しているために従来の過給エンジンの圧縮比8程度に比べれば,6%程度の燃費改善効果が生じている.さらに遅閉じによるポンピングロス低減効果も加われば同排気量の従来エンジンよりも良い燃費率が可能になる.しかし,本エンジンは信頼性上のリスクを避けるためにリショルムコンプレッサーを常時駆動しているので駆動損失とポンピング損失低減効果が相殺している.

 それでも高膨張比による高い熱効率は維持されたうえで,全回転速度域にわたって高いトルクを達成しているので,トルク同等の大排気量エンジンと比較すれば小排気量による抵抗低減分が全て燃費低減効果として反映される.その結果,図4のように3L従来エンジンよりも,部分負荷域で10~15%燃費が良くなっている.また副室式(IDI)ではあるものの,トルク同等のディーゼルエンジン並みになっていることも分かる.

5.実車燃費性能

 本エンジンを搭載したEUNOS800と2Lクラス,3Lクラスの乗用車における種々の実用燃費性能を比較したものを図5に示す.エンジンの暖機やエアコンの使用を含む日常的な使い方においても,6気筒2Lクラスの燃費性能を実現できたと言える.

6.おわりに

 ミラーサイクルエンジンは将来的には,より高いトルク(小排気量)&より高い膨張比(熱効率)も可能であり,さらに大きな燃費向上が期待できる.また,リーンバーンとの組み合わせによる超低燃費エンジンの実現やディーゼルエンジンや二サイクルエンジンヘの適用も不可能ではなく,CO2排出量低減が求められる21世紀に向けて大きな可能性を秘めている.

 本研究の成果に対して、日本機械学会は、1995年、池田龍司(マツダ(株))、畑村耕一(同左)、野上孝雄(同左)、松岡英明(石川島播磨重工業(株))、井口雄一(同左)に日本機械学会賞(技術賞)を贈った。

文献

[1] 後藤、調枝、清水、阿部、「ミラーサイクルガソリンエンジンの開発」、自動車技術会春期学術講演会、9302088, 1993.
[2] T.Goto, S.Takizawa, N.Hayama, H.Abe, H.Kanesaka, "Development of Miller Cycle Gasoline Engine(ミラーサイクルガソリンエンジンの開発)", SAE, SAE 940198, 1994.
[3] 後藤、松原、調枝、清水、「ユーノス800用ミラーサイクルエンジン」、内燃機関、Vol.33, No.414, pp.20-28, 1994.
[4] T.Goto, M.Hitomi, H.Ohe, "Development of Automotive Miller Cycle Gasoline Engine(自動車用ミラーサイクルガソリンエンジンの開発)", FISITA, FISITA 945008, 1994.
[5] M.Hitomi, J.Sasaki, Y.Yano, "Mechanism of Improing Fuel Efficiency by Miller Cycle and its Future Prospect(ミラーサイクルによる燃費効率向上メカニズムと今後の展望)", SAE, SAE 950974, 1995.
[6] 人見、大江、小林、「ミラーサイクルガソリンエンジンの平均有効圧の増加に関する研究」、日本機械学会論文集. B編、Vol.61, No.590, pp.3477-3483, 1995.

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キーワード

自動車、ガソリンエンジン、ミラーサイクル、低燃費、吸気弁、過給機、過給エンジン
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