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シール一体形磁性流体軸受を用いたポリゴンミラー回転システムの開発

製品化したモータの外観と概略図

図1 製品化したモータの外観と概略図

超精密自動バランサの構成概要

図2 超精密自動バランサの構成概要

ミラー取付け面のセルフカット機構

図3 ミラー取付け面のセルフカット機構

製品化したモータの回転特性

表1 製品化したモータの回転特性

1.概要

 最近,編集機能を有するインテリジェントなディジタルフルカラー複写機が普及し始めており,OA用レーザビームプリンタの技術としては,“より速く”,“より美しく”といった要求に加え,コンパクトな複写機が強く望まれている.これには,主機の主構成要素となっているレーザ走査用ポリゴンミラーモータの高速,高精度回転化とコンパクト化が必須で,軸受技術がキーテクノロジーとなっていた.

 本技術では,ポリゴンミラーモータの高速,高精度回転技術として,油潤滑軸受の特徴と磁性流体シールの特徴を活かした新しい発想のシールー体形磁性流体軸受を開発した.さらに,本技術を実用化するために量産性に優れる軸受製造技術や本軸受の特徴を活かしたミラー取付け面の高精度加工技術及び高精度回転化に必須の超精密自動バランシング技術などシステム的に開発を進め,シールー体形磁性流体軸受採用のコンパクトな20000r/min~30000r/min級の高速ポリゴンミラーモータを世界で初めて製品化した.本製品は印字密度400dpi,印刷速度30枚/分のレーザプリンタやディジタルフルカラープリンタ用として量産中である.

2.技術の特徴

 2・1 従来の軸受技術  周知のように,モータにはボールベアリングや油潤滑軸受及び空気軸受などが使用されている.この中で,油潤滑軸受は軸受剛性やダンピング特性に優れた軸受であるが,ポリゴンミラーモータに適用するには油漏れの問題を完全に解決する必要があり,その困難性のために適用例はなかった.

 ボールベアリングは,回転精度や高速性能に限界があり,レーザビームプリンタでは10000r/min以上の高速回転には空気軸受を適用するという考えが定説化していた.この空気軸受は,高速性に優れた軸受であるが,精密な加工技術を必要とするため量産性やコストの問題を抱え,OA機器には普及していないのが実情であった.

 2・2 シールー体形磁性流体軸受  このような状況の中で,磁性流体を軸受の潤滑とシールの両方に用い,油潤滑軸受の特性を活かした新しいタイプのシールー体形磁性流体軸受を開発した.図1に製品化したシールー体形磁性流体軸受採用のポリゴンミラーモータの外観と構造を示す.

 軸受ユニットは,軸受の上部に磁性流体シールと粘性シールを組み合わせた複合シールを配置し,潤滑用の磁性流体を封入した簡単な構成になっている.この磁性流体は,粒径0.01μmの磁性粉に界面活性剤を処理して潤滑油の中に均一に分散させた流体で,磁界を作用させると磁性を帯びる性質を持つ流体である.この性質を利用して透磁性の軸とリング状の永久磁石で磁性流体シールを構成するとともに,封入した磁性流体で軸受を潤滑している.本構造では,モータの停止時や低速回転において磁性流体シールで密封し,高速回転領域は内周面に螺旋溝を設けた粘性シールで完全密封を実現している.

 2・3 軸受の製造法  量産性に優れる焼結軸受をあらかじめ図1右下に示す形状,寸法に成形し,この軸受を軸受ハウジングに圧入と同時に真円度,同軸度とも1μmの内径精度が得られるサイジング加工法を開発した.本製造法は軸受の切削加工が不要で,グルーブ加工や研削加工を必要とする空気軸受方式に比較して量産性に優れるうえ,1/10以下の大幅なコスト低減を可能にしたことが特徴である.モータのコンパクト化に対しては軸受の高剛性化によって軸受スパンを20mm以下に短縮して1/2の薄型化を図った.

 2・4 バランシング技術  ロータの不釣合修正に対しては,高精度回転が必要とされるVTRのシリンダモータに比較しても,ポリゴンミラーモータでは1桁精度が高い数mg・cm以下のバランス精度が要求されている.市販のバランサーではこのような精度の高い不釣合修正が困難であった.そこで,図2に示す超精密自動バランサーを生産設備として開発した.本バランサーは,従来の変位センサより感度の高い加速度センサを利用して分解能を高めるとともに,吐出量精度0.1mgの接着剤用マイクロディスペンサを用いてバランスの高精度化と自動化を図り,モータの振動低減及び量産,低価格化を実現した.

 2・5 ポリゴンミラーの取付面の加工法  図3に生産設備として具体化したミラー取付け面のセルフカットの概要を示す.本加工法は,ワークを定格回転数に駆動してミラー取付け面を直接切削加工するもので,回転が円滑で軸受剛性の高い磁性流体軸受を用いているので,回転中心に対して取付け面の直角精度が高く,サブミクロンの表面精度が得られることが特徴である.

 2・6 ポリゴンミラーモータの回転特性  表1は,製品化した高速ポリゴンミラーモータの性能を示したもので,開発した技術によって回転精度は許容値に対し回転変動が0.010%,ミラーの動的面倒れ角(軸振れ)は1/3以下といった精度を実現し,プリンタの高速,高精細化に対応できる回転精度を達成している.また,モータの振動値を許容値の1/3以下に低減するとともに,回転音はボールベアリング採用のモータに比較して流体潤滑の効果により-8dBの騒音低減が可能となり,モータの静音化にも有効であることを確認した.

3.おわりに

 本技術は,磁性流体の新しい応用技術としてクリーンな環境に適した新しい高速軸受技術として具体化するとともに製品技術として完成した.本技術は応用範囲が広いので,さらなる工夫によって機器の機能や特性を大幅に向上させることが可能と思われる.これからの新しいトライボロジー技術として発展を期待している.

 本研究の成果に対して、日本機械学会は、1994年、新居勝敏((株)日立製作所)、川池和彦(同左)、宇野斌(同左)、石崎公祥(日立多賀エンジニアリング(株))、赤司末雄((株)日立製作所)に日本機械学会賞(技術賞)を贈った。

文献

[1] 新居勝敏 他、「ポリゴンミラーモータ用磁性流体軸受」、PIME Part J Journal of Engineering Tribology、Vol.210, pp.199-204, 1996.
[2] 新居勝敏 他、「磁性流体軸受」、トライボロジスト、Vol.41, No.6, pp.464-469, 1996.

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キーワード

シール一体型磁性流体軸受、ポリゴンミラー回転システム、超精密自動バランサ
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