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自動車用アクティブ騒音制御システムの開発

システム構成

図1 システム構成

制御アルゴリズムのブロック図

図2 制御アルゴリズムのブロック図

車両搭載図

図3 車両搭載図

アクティブ制御によるこもり音低減効果

図4 アクティブ制御によるこもり音低減効果

1.はじめに

 騒音低減による車室内の快適性向上の要請は近年ますます高まりつつある.その中で4気筒エンジン搭載車の主要な騒音現象である「こもり音」は,圧迫感を伴う不快な音として代表的な問題となっている.音を音で打ち消すアクティブ騒音制御技術は原理的に大幅な音圧低減が可能であることが知られていたが,騒音の状態が多くの要因で複雑に変化する自動車のような対象について,広がりを持つ空間全体を安定して静粛化できるシステムは,これまで実現されていなかった.

 今回,三次元空間における音の干渉という観点から自動車のこもり音現象を改めて捉え直し,現象に見合った多チャンネルの適応制御システムを確立することにより,世界で初めて自動車用アクティブ騒音制御システムを量産実用化することに成功した.以下に本システムの概要を示す.

2.システムの概要

 2・1 全体構成  図1にシステム構成を示す.乗員頭上付近の天井4箇所に取付けられたマイクロホンは,エンジン回転二次の周波数で発生するこもり音の振幅と位相を検出し,コントローラに入力する.コントローラはこの音圧信号とエンジン回転に同期した信号に基づき,マイクロホン位置で音をキャンセルするよう,左右前席シート下に配置された専用スピーカからの出力音を瞬時に制御する.コントローラにはこのような高速演算が要求されるため,Digital Signal Processor(DSP)を用いている.性能を左右するスピーカ,マイクロホンのレイアウトは,車室の空洞共鳴モードの確実な検出や一次音(こもり音)と二次音(スピーカからの制御音)の波面の整合などの音響的な観点から決定し,必要最小限の規模にまとめた.

 2・2 制御アルゴリズム  耳位置の一次音を打ち消すために発生すべき二次音の振幅と位相は,車両個体差や運転条件(アクセル開度など),車室内環境(窓の開閉・室温・乗員数など)により大きく変動する.さらにその変化の仕方そのものも,空問位置や周波数ごとに複雑に変化する.これらあらゆる条件下で制御を成立させるため,本システムではMultiple Error Filtered-x LMSアルゴリズムを基本とした.最小化すべき評価関数をマイクロホンで検出される音圧の自乗和とすることにより,等価的に車室内の音響エネルギ全体が抑制されることになる.図2に2スピーカ,2マイクロホンのシステムの場合のブロック図を示す.

 しかしながら,このアルゴリズムではスピーカ~マイクロホン間の音響伝達特性のモデルをコントローラ内にフィルタ(図2中のĈ)として持つことを前提としている.このことは適応制御でありながらなお固定的要素を内包していることを意味し,これに起因する不安定化の誘起という問題が残されていることになる.

 これに対し,制御の不安定化のメカニズムを究明することにより,多重の安定化ロジックを付加するアルゴリズム構成を導いた.さらに個々の要素部品の精度と制御定数の最適化を行ない,上記フィルタを固定とした簡素な構成のまま,安定領域の拡大と良好な消音効果の維持を両立するシステムを完成した.

 2・3 主要部品  図3に本システムの車両搭載図を示す.制御の効果は騒音に対し逆位相の音をいかに正確に干渉させるかで決まるため,各部品について以下のような工夫を凝らした.

 (1)マイクロホン ノイズに強い回路構成とするとともに耐熱性に飛んだマイクロホンを開発し,ゲイン,位相の変化を最小化した.

 (2)スピーカ 背面を樹脂製のエンクロージャで包み込むことにより,制御に適したスピーカを開発した.防水構造等,過酷な使用条件を想定して信頼性も高めた.経時変化も考慮した位相特性の管理を実施している.

 (3)コントローラ DSPの使用とアルゴリズムの簡素化により,コンパクトな回路・容積・重量に収めることができた.また,異常監視機能とフェールセーフ機能を備え,十分な安全性を確保している.

3.性能評価

 図4に車室内のこもり音の実車測定データを示す.エンジン回転速度3000rpm以上の領域を中心に,最大10dB以上の音圧低減が確認できた.このような大きな効果は従来の騒音低減手段の達成レベルをはるかに超えるものであり,高回転域まですっきりした快適な車室内空間が実現されている.

4.あとがき

 今回実用化に成功したアクティブ騒音制御システムは,従来のバッシブな手段,すなわち[M][C][K]のマトリクスの最適化を志向する方法とはまったく異なる考え方に基づくものである.著しい音圧低減のみならず,アクティブな手法の魅力として重量などの制約をほとんど受けずにこれを実現し得ることが挙げられる.環境への配慮が各分野で真剣に検討されている中,今後は構造,制御両面からの最適化により軽量で効率のよい騒音低減技術の進展が期待される.このような将来に向けた新しい技術分野を切り開く第一歩として,本システムの開発が多少なりとも貢献できれば幸いである.

 このシステムの実現は多くの方のご支援によるものであり,特に量産化にあたっては株式会社日立製作所自動車機器事業部のご協力をいただいている.この場をお借りし,関係各位への深甚なる謝意を表します.

 本研究の成果に対して、日本機械学会は、1994年、木下明生(日産自動車(株))、田畑俊幸(同左)、長谷川聡(同左)、中路義晴(同左)に日本機械学会賞(技術賞)を贈った。

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アクティブ騒音制御、こもり音、DSP、マイクロフォン、スピーカ
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