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並列処理による汎用大規模構造解析システムの開発と実用化

携帯電話の解析結果の例

図1 携帯電話の解析結果の例

1. はじめに

 HPC(High Performance Computing)は急速に発展している.一方では,これまで実用CAE分野でのHPC の利用はほとんど行われていないといってよい.製品開発のサイクルが短くなる中,もっとも恩恵に浴してほしいCAEのパフォーマンスは十分とはいえない.著者らが開発した並列構造解析システムは超並列機上でも稼動し,大規模な解析が可能である.製造業界では大手メーカに導入が進んでいる.

2. 並列処理による構造解析システム

 本構造解析システムは,日本学術振興会・未来開拓学術研究推進事業ADVENTUREプロジェクトのADVENTUREシステムをベースに開発された商用・並列処理構造解析コードであり,ADVCと名付けられている.ADVCには,CGCG法という領域分割法を基にしたアルゴリズムが実装されている.

 陰解法・反復型部分構造法に基づく構造解析は長く研究されてきた.最も初等的なものは,分割領域内部を直接法で解き,その解を領域間境界の方程式に重ね合わせ,これをCG法で解く.

 ノイマン法では,分割領域を個々に部分構造と考える.部分領域のほとんどはノイマン条件だけが課せられ,剛体変位の不定性が生じるが,これら全ての部分構造の一般逆行列の和をCG法の前処理行列とする.しかし,これは部分構造の剛体変位による弊害が出て,収束性はよくない.

 Mandel([1])とFarhat([2])は,ノイマン法の剛体変位の不定性を取り除くために,部分領域全部のグローバルな剛体運動を考えることによって,剛体変位の不定性を取り除くという,画期的な手法を開発した.これらはそれぞれBDD,FETIと名付けられている.これらにより,反復型部分構造法のパフォーマンスは劇的に向上した.

 BDDもFETIも,各部分構造の剛性方程式を解くことを基本としている.しかし,CG法の前処理の観点からはこの重い処理は必要ないし,著者らには,多数のベンチマークを通じて,分割構造を増やし,各部分構造の剛性方程式を解くための直接法の寄与を減らせば,パフォーマンスはよくなっていくことがわかっていた.そこで,グローバルな分割領域の運動だけをCG法の前処理として用いる手法を新たに開発した.これにCGCG 法と名付け([3]),特許も取得した(特許第3824582号).収束性とメモリ効率が飛躍的に向上した.

3. 電子機器の解析例

 著者らは,IBMワトソン研究所の協力のもとで,ADVCを用いて携帯電話の落下衝撃解析を行い,Supercomputing 2006でゴードンベル賞ファイナリストにも選ばれた ([4]).解析のポイントは,CAD をほぼそのまま読み込み,3 億500 万自由度とこれまでに例を見ないほどの巨大なモデルになった点,部品点数が198 個と多い点,計算時間幅がメッシュサイズ依存性の少ない陰解法による動解析を行っている点,IBM Blue Gene/L 8 ラック,8192ノード8192プロセスという,かつてない大きな並列プロセスでの計算である点などである.解析対象時間は約2.5 ミリ秒,計算時間は約28 時間である.解析結果の例を図1 に示す.本解析からは,実験では知りえない,内部構造物の応力伝搬の様子などが定量的に評価できることが実証された.

4. 産業界におけるADVCの広がり

 ADVCは,2001年に商用化されて以来,自動車および自動車部品メーカ,エレクトロニクスメーカ,精密機器メーカ,重工メーカ,エネルギ機器メーカ,鉄鋼メーカなどの有力企業および有力研究機関への導入が進んでいる.ユーザがADVCを用いる理由は,従来は不可能だった大規模解析が可能であること,従来のCAEシステムに比べて非常に高速であることなどである.

5. まとめ

 並列処理による構造解析システムADVCの技術的背景と解析例,産業界への影響などを述べた.大規模シミュレーションは,製品設計や信頼性評価などに今後ますます欠かせない技術となっていくであろう.ADVCおよびわれわれの開発技術は,製造業の設計プロセスを変革し,新たな道を切り開くものと自負している.

 本研究の成果に対して、日本機械学会は、2008年、秋葉 博((株)アライドエンジニアリング)、吉村 忍(東京大学)、野口裕久(慶応義塾大学)、大山知信((株)アライドエンジニアリング)、川上 崇((株)東芝)に日本機械学会賞(技術)を贈った。

文献

[1] Mandel、1993年、Comm Numer Neth Eng, 9, pp. 233-341, 1993
[2] Farhat and Roux、1991年、Int. J. Numer Meth Eng., 32, 1205-1227, 1991
[3] 鈴木 他、2002年、機論A編、653、pp. 1010-1017, 2002
[4] Suzuki et al.、2002年、Trans. JSME Ser. A, 653, pp. 1010-1017, 2002
[5] Akiba et al.、2006年、Proceedings of SC06, 2006

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並列構造解析システム、陰解法・反復型部分構造法、パラレルコンピュータ、シミュレーション技術、計算固体力学、有限要素法、CAD/CAM/CAE
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