1. HOME
  2. 電気・情報関連(専門)
  3. 研究情報(登録番号1057)

ナノフォトニクスの創造とその先導研究

 大津元一氏は光の微小化(光エネルギーが集中する空間をナノ寸法まで小さくすること)のための基礎研究とその応用技術であるナノフォトニクスを世界に先駆けて提唱し、その先導的研究を推進した。更にその国際的な普及のための学会活動、委員会活動、実用化のための産学連携を通じて工学及び工業上多大な貢献をした。

 まず同氏は光の微小化のためには「近接場光」を発生させて使う必要があると考えた。近接場光の発生は20世紀前半から理論的に知られつつも昭和50年代半ばまで研究対象ではなかったが、同氏は世界の先駆者として近接場光の発生のみでなくエネルギー移動の原理に踏み込んで研究し、近接場光発生・検出の基本デバイスとしてのファイバプローブの開発、すなわち「物づくり」が必須であると考えそれを実現した。これを用いて光の回折限界を超える世界最高の分解能0.8nmを実現し、DNAの単一分子計測、半導体の単一量子ドットの分光などの先駆的な技術を開発した。更に、近接場光エネルギー移動の量子力学的理論を構築してナノ寸法領域での光と物質の融合した独特の状態を扱う新しい学問分野を開拓した。

 同氏は近接場光が光技術のブレークスルーのために広く応用できることを認識し、この技術を「ナノフォトニクス」と命名して新しい光デバイス、光加工、光メモリ、更には光通信システムを開発した。これらは国内外を通じて唯一、同氏がなし得た業績である。更に特筆すべきは、同氏の研究の本質は単に「量的変革」(回折限界を超えてナノ寸法の光技術を実現すること)にあるのではなく、「質的変革」(伝搬光では原理的に実現不可能な、近接場光固有の性質に起因する独特の現象と機能を引き出し使うこと)であるという考え方を貫いたことである。同氏はこれに基づき近接場光と物質との局所的相互作用を利用したナノ寸法の光加工、半導体量子ドット間の光学禁制遷移を利用したナノ寸法の光デバイスなど従来の光技術の原理を逸脱した概念と技術を生み出した。更なる発展技術としてアトムフォトニクスも開拓した。これは近接場光を用いて中性原子の熱運動を制御走査するものであり、これにより原子レベル結晶成長への道を開いた。

 同氏はこれらの成果をもとに産業界との協力により分光分析装置、近接場光リソグラフィー装置を実用化した。更に大容量の光情報記録再生システム開発並びにナノ寸法の光デバイス開発のための大型産学連携事業などを推進した。一方、公的資金による基礎研究プロジェクト、人材育成プロジェクトを統括した。

 以上のように、同氏は従来の光技術の限界を打破する革新技術としてのナノフォトニクスを創始し、その基礎研究から実用化に至るまで主導的役割を果たした。

 この技術に対して、電子情報通信学会は、2007年、大津元一氏に業績賞を贈った。


文献

[1] 大津元一、ナノフォトニクスによる光技術の質的変革、2008年、応用物理、77巻、11号、pp.1341-1352.
[2] 大津元一、小林潔、近接場光の基礎、2003年、オーム社、東京
[3] 大津元一、小林潔、ナノフォトニクスの基礎、2006年、オーム社、東京
[4] M. Ohtsu, T. Kawazoe, T. Yatsui, and M. Naruse、Nanophotonics: Application of Dressed Photons to Novel Photonic Devices and Systems、2008年、IEEE J. Selected Topics in Quantum Electron., vol.14, no.6, pp.1404-1417
[5] M. Ohtsu and K. Kobayashi、Optical Near Fields、2003年、Springer-Verag, Berlin
[6] M. Ohtsu, K. Kobayashi, T. Kawazoe, T. Yatsui, and M. Naruse、Principles of Nanophotonics、2008年、CRC Press, Boca Raton

関連する研究を検索

分野のカテゴリ

電子・デバイス
(光技術)

関連する出来事

データなし

世の中の出来事

2007
京都大学の山中伸弥教授が、人の皮膚からのiPS万能細胞の開発に成功する。

Webページ

データなし

博物館等収蔵品

データなし

キーワード

ナノフォトニクス、近接場光、光エレクトロニクス
Page Top