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営業車両において常時脱線係数を測定できる台車とそれを用いた脱線係数監視システムの開発

輪重と横圧

図1 輪重と横圧

輪重測定用変位計

図2 輪重測定用変位計

横圧測定用センサ配置

図3 横圧測定用センサ配置

常時PQ測定用台車

図4 常時PQ測定用台車

曲線部(R=160m)における脱線係数の時間変化

図5 曲線部(R=160m)における脱線係数の時間変化

1.概要

 鉄道車両の走行安全性を示す指標として使われている「脱線係数」とは,車輪に加わる縦方向の力(輪重:P)と横方向の力(横圧:Q)との比Q/Pの値を言う(図1).列車の走行中に発生する脱線係数が,車輪とレールの接触幾何および摩擦係数から計算される限界脱線係数(安全の目安値)よりも低ければ,安全な走行が担保される.

 従来,脱線係数の測定は主に新線開業時や新型車両の導入時等の限られた機会にしか行われておらず,時間経過とともにどのように変化しているかの観察は行われていなかった.

 ところが近年の研究により,同一路線の同一車両が同一地点を通過する場合でも,脱線係数の値が変化していることが明らかになってきた.そのため,様々な条件下での脱線係数の変化を捉えるための営業車両による常時監視システムの開発が求められるようになって来た.

2.技術の内容

 従来の脱線係数の測定は,PQ輪軸と呼ばれる測定専用の特殊な車輪軸を用いる必要があった.これは車輪の歪みから輪重と横圧を測定するもので,歪みゲージを貼付したり信号線を通すために穴あけ加工がなされていることに加え,熱影響を避けるためにブレーキを作用させることもできないことから営業中の列車に装着して測定することができず,限られた機会の試運転列車でしか測定ができなかった.また,回転するPQ輪軸から信号を取り出すためにはスリップリングあるいはテレメータが必要であり,常時監視を行うには適していない.

 そこでPQ輪軸を用いずに輪重と横圧とを測定できる新たな方法として,車輪ではなく台車に装着したセンサを用いて計測するシステムの開発を行った.

 輪重の測定には車輪の歪みに代わり台車の変形を捉える方法とした.開発にあたっては,台車枠の歪みを計測する方法と,車軸部分のバネの垂直変位を捉える方法の2通りで試験を実施した.どちらの方法を用いた測定結果もPQ輪軸を用いた測定結果との間に良い線形性を示したことから,実用上問題ないことが明らかになった.実用化に当たってはメンテナンス性も考慮してバネ変位を計測する手法を採用した(図2).

 横圧の測定には台車の軸箱近傍に設置した非接触変位計で,車輪の変形を捉えることとした.走行中の車輪は横圧により変形するだけでなく,ベアリングのガタによる横変位や車輪そのものの傾きによる変位も発生する.これらの影響を排除し横圧による変形のみを捉えるために,車輪の板部の変位の他,車軸近傍の上下2点の変位を捉えることにより測定値の補正を行った(図3).また,円錐コロ軸受を採用した上で軸受をキーで固定することにより,横変位をできる限り押さえるとともに,車輪板部の平面性を向上させることで横圧による微少な変形を精度良く捉えることが可能となった.従来のPQ輪軸を用いた測定結果と比較したところ測定値は良く一致しており,実用上問題ないことが明らかとなった.

 脱線係数の測定を営業列車を用いて常時行うためには,輪軸にブレーキを作用させる必要がある.ブレーキの使用により車輪が熱変形を起こさないよう,ブレーキは車輪に作用するものではなく輪軸にブレーキディスクを装着することとした.

 こうした工夫を行うことで,営業車両において常時脱線係数を測定できる実用台車(図4)を完成させ,現在,東京地下鉄丸ノ内線にて使用し,測定データを日々取得している.

 図5に曲線半径160mのカーブに進入して出て行くまでの間の脱線係数の測定結果を示す.各測定時刻に於けるグラフの形状はほぼ相似形を示している一方で,脱線係数の値そのものにはばらつきがあることが分かる.このカーブに進入する手前には車輪やレールの異常な摩耗を抑制するとともに曲線通過性能を向上させるためにレールに塗油を行う装置が設置してあり,一定の列車間隔ごとに動作している.塗油による摩擦係数の変化が脱線係数の変動に影響するものと考えられることから,取得されたデータを元に適切な摩擦状態の管理手法について研究を進めていきたいと考えている.

 また,カーブの曲率が同じでありながら脱線係数の変動範囲に違いが出ることも,本システムによる常時監視の結果明らかになった.今後の解析により,その違いの出る要因を明らかにし,適切な曲線部の軌道管理に結びつけたいと考えている.

3.まとめ

 営業車両を用いて脱線係数の常時監視を行うことで,これまで明らかでなかった軌道状態の変化を捉えることが可能となった.本システムにより取得されたデータを活用して新たな知見を得るとともに,本技術の普及により鉄道の安全性・安定性のさらなる向上に貢献していきたい.

 本研究の成果に対して、日本機械学会は、2011年、清水忠(東京地下鉄(株))、大野寛之((独)交通安全環境研究所)、佐藤輿志(住友金属工業(株))、谷本益久(住友金属テクノロジー(株))、松本陽((元)(独)交通安全環境研究所)に日本機械学会賞(技術)を贈った。

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常時監視、脱線、脱線係数、台車、横圧、輪重
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